英語で書こうとすると意外と書けないかもしれない「国の名称」についてのコラム、4回目となる今回は米英以外の「英語圏」各国をまとめて見ていきましょう。今回もまたおやつでも食べながら読んでってください。
前々回「アメリカ」について、前回「イギリス」について書いてきましたが、今回もまた、「英語圏のことだから知ってるよ」と思いながら読み流していたら、実は「知ってるつもり」になってただけでうろ覚えだったということに気づいた、というようなことがあったら、そこは読み流さず、忘れる前にしっかり確実な知識にしてしまいましょう。
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「英語圏」とは(再確認)
まずは「英語圏」について、前々回の当コラムで見た図(via 英語版のウィキペディア)を再掲しておきます。詳しい説明は、前々回の記事を参照してください。
この図で明るい緑色(黄緑色)で塗られているのがいわゆる「英語圏」。今回はその中で、アメリカ(米国)とイギリス(英国)を除く国々について見ていきましょう。いずれの国も、イギリスとの関係が大変に深いです。
アイルランド: Ireland
大ブリテン島の西隣にあるアイルランド島は、現在は「アイルランド共和国」と「北アイルランド」(後者は英国の一部)に分けられていますが、もともとは島全体で4つの地域から成るひとつの大きなまとまりでした。
詳しく説明するととても長くなってしまうので、概略だけにしますが、その島にブリテン島からの侵略があって、イングランド人やスコットランド人が支配的な立場で移住などするようになり、アイルランドの人々は元々の言語(英語とは全然違う「アイルランド語」と呼ばれる言語)を禁じられ、英語を使うことを余儀なくされていきました。
現在のアイルランド共和国の元となった国(アイルランド自由国)は、1920年代初めにイギリスから独立しましたが、独立後もアイルランド語が完全に回復されることはなく、ほとんど全域で、日常生活では英語を使っています。公用語はアイルランド語と英語で標識などで2言語表記がなされていて、国歌の歌詞はアイルランド語で、「総理大臣」や「外務大臣」のような政府要職の名称はアイルランド語が用いられていますし、政治家や大統領のスピーチなどでアイルランド語が部分的にであれ使われることも頻繁で、学校ではアイルランド語が必修だそうですが、新聞やテレビは基本的に英語で、人々の生活も「アイルランド語地域」と呼ばれるごく一部の地域を除いて、ほとんどすべてが英語で営まれています。環境がわりと落ち着いているので、英語の語学留学先としても人気がありますね。
北アイルランドは英国の一部で、言語はもちろん英語ですが、非公式な場ではアイルランド語が使われることもあります。
アイルランドの首都はダブリン (Dublin) です。北アイルランドはベルファスト (Belfast) が中心です。
このアイルランド、英語で書けば、Irelandです。発音も気をつけてください(リンク先で発音を確認してください)。日本語のカタカナ式では「アイルランド」と「ラ」の音が高く読まれますが、英とのIrelandでは、アクセント(語強勢)は-landにではなくIre-にあります。形容詞形はIrishです。
北アイルランドはNorthern Irelandです(イギリスの正式国名、the United Kingdom of Great Britain and Northern Irelandの中にも入っていますね)。ただし政治的な立場によって、the North of Irelandと呼ぶ人たちもいます。日本語にすればどちらであっても「北アイルランド」ですが、英語でのこの2つの呼称の差異はとても大きいので気をつけましょう。何かの機会に「北アイルランド」と言うことになった場合は、国際的に「正式」な名称として使われているNorthern Irelandを使うのが無難です。
アイリッシュの人々(アイルランド人、アイルランド系の人々: the Irish people)は、過酷な歴史の中で島の外に移住していき、現在ではアイルランド島より北米大陸やオセアニアのアイリッシュの人口が大幅に上回っています。最新のデータ(2011年)によると、アイルランド共和国のアイリッシュの人口が約460万人、北アイルランドでは約180万人で、アイルランド島には約640万人のアイリッシュがいるという計算になりますが、アメリカ合衆国には4000万人以上のアイリッシュがいます。ものすごい差ですね。
アイルランド系アメリカ人(Irish American)で最も有名なのは、暗殺から50年以上が経過しても依然、日本では根強い人気のあるジョン・F・ケネディ元大統領でしょう。
カナダ: Canada
イギリスと同じ国家元首(現在はエリザベス2世)をいただく北米の国、カナダは、Canadaと書きます。綴りはそのまんま「ローマ字」状態ですから、間違えることはあまりないでしょう。
カナダの歴史は、世界史でもほとんど触れられることはないのですが、かなり複雑です。英国から独立はしていますが、国家元首(カナダ国王)はイギリスの国家元首が兼ねています。そもそも、カナダが独立したのは20世紀の第一次世界大戦後ですし、憲法を制定して完全な主権国家となったのは、なんと1980年代です。歴史的には、大まかに言えば、アメリカ合衆国が「反英」の立場だったところ、北隣のカナダが「英国の一部」だったわけです。
そういったことについても書き始めたら長くなるので、ここでは割愛しましょう。アメリカ合衆国同様、先住民が長く暮らしてきたカナダの地に最初に入植したのはフランス人でした。その後、イギリス人がやってきますが、このため、現在でもカナダはフランス語圏(ケベック州)と英語圏に分かれています。カナダという国全体で製品の説明書や各種表示などは2言語併記で、義務教育ではこれら2言語が必修だそうですが、2言語が使える人は一般人にはそう多くなく、英語圏の人たちはだいたいが「フランス語は見ればわからなくはないかな」という程度だと聞きました。
ただしエリート層や仕事で2言語が必要な人は別。カナダ全体のリーダーである首相は、Twitterなどでも2つの言語で発言しています。
首相府の公式アカウント(フランス語):
En direct: le premier ministre Justin Trudeau fait une annonce à l’usine Nord de Toyota Motor Manufacturing Canada à Cambridge en compagnie de Kathleen Wynne, première ministre de l’Ontario. https://t.co/YJiMfP7kWf
— PMcanadien (@PMcanadien) May 4, 2018
首相府の公式アカウント(英語):
Live: Prime Minister Justin Trudeau makes an announcement at the Toyota Motor Manufacturing Canada North Plant in Cambridge with the Premier of Ontario, Kathleen Wynne. https://t.co/Fi7GunpIFY
— CanadianPM (@CanadianPM) May 4, 2018
首相の個人アカウントでのフランス語によるツイート:
Excellente journée pour le secteur de l'automobile et les Canadiens. De concert avec le gouvernement de l'Ontario et @ToyotaCanada, nous investissons dans les usines de Toyota à Cambridge et Woodstock pour créer 450 emplois et 1 000 stages. Détails : https://t.co/3VxZVkwinM pic.twitter.com/sTzA3dHtdz
— Justin Trudeau (@JustinTrudeau) May 4, 2018
首相の個人アカウントでの英語によるツイート:
Today is a great day for our auto sector & Canadians – together with the Government of Ontario and @ToyotaCanada, we’re investing in Toyota’s Cambridge & Woodstock plants to create 450 new jobs as well as 1,000 new co-op placements. Get the details: https://t.co/SxDgC9cNPr pic.twitter.com/I7pfBMBPrf
— Justin Trudeau (@JustinTrudeau) May 4, 2018
このように2つの言語が用いられているカナダですが、どちらの言語でも国名はCanadaです。英語での形容詞形はCanadianです(フランス語ではCanadienで、場合によって語尾の変化があります)。
首都はオタワ (Ottawa) ですが、最大の都市はトロント (Toronto) です。緯度が高く山岳地帯も多いため寒冷で、ウィンタースポーツが盛んですが、1988年にカルガリー (Calgary)、2010年にバンクーバー (Vancouver) の2度、冬季オリンピックの開催がありました。
オセアニア諸国
南半球、太平洋にあるオーストラリア大陸と、その周辺の島を合わせた国がオーストラリア、その南東に浮かぶ2つの島を中心とする列島から成る国がニュージーランドです。どちらも、カナダと同じく、イギリスと同じ国家元首をいただいているほか、国旗には英国旗(ユニオンジャック)が入っています(ニュージーランドでは2015~16年に国旗変更が検討されましたが、結局は変更しないという結論になりました)。どちらも、17世紀以降にヨーロッパ人が到達して「開発」を行うようになり、19世紀にはイギリスの支配下に置かれました。両国とも、イギリスと対等な関係を結ぶ自治国家となったのは、第一次世界大戦後の1931年です(カナダも同じ)。
オーストラリア: Australia
カンガルーやコアラでおなじみのオーストラリアの綴りはAustralia(発音に注意しましょう)。L(エル)とR(アール)を混同しないように覚えることが必要です。
オーストラリアは大陸がひとつ丸ごと国になっているので面積が広いのですが、人が住んでいる地域はそう多くはありません。海に囲まれた大陸の沿岸部にいくつか大きな都市が点在しています。最大都市はシドニー (Sydney) ですが、首都はキャンベラ (Canberra) です。
オーストラリアの形容詞形(「オーストラリアの」および「オーストラリア人(の)」の意味)は、Australianですが、口語でAussieという言い方もよくします。日本語でもオーストラリア産の牛肉のことを「オージービーフ」と呼んだりしますよね。
ニュージーランド: New Zealand
ニュージーランドはNew Zealand(アクセントに注意。リンク先で音声を確認してください)。現地語(マオリ語)では「アオテアロア Aotearoa」と言います。首都は北島にあるウェリントン (Welington) です。
ニュージーランドの形容詞形は、実は特にありません。形容詞形がないのは不便そうですが、名詞をそのまま形容詞化して使っていたり(New Zealand woolのように)、前置詞をつけて表していたりします(~ of New Zealandの形)。口語ではkiwiという語が「ニュージーランドの」の意味で使われることがよくあります。Kiwiはニュージーランドにしかいない飛べない鳥(上の写真を参照)の名称で、「ニュージーランド名物」という意味合いからニュージーランドで品種改良と商業的栽培に成功した新しい果物、「キウイフルーツ」の名前の元となったことでも知られています。
「ニュージーランド人」を言うときにもKiwiという語は使われますが、正式には、New Zealanderという表現があります。
まとめ
以上、英語圏の国々については、国名も形容詞形も書けるようにしておきましょう(「見てわかる」だけでは不十分です)。
今回見てきた国々は、英語圏の中でも俗に「白人の国」と認識されている国々です。ブリテンと隣接するアイルランドは別ですが、北米大陸やオセアニアは、ブリテンから白人たちが移住するようになる前から、「白人」以外の先住民族の人々が暮らしてきた土地で(アイルランドの先住民族は「白人」でした)、入植者たちはそれら先住民族の人々に対して自身の言語を押しつけ、それらの土地を英語化してきたという経緯があります。ニュージーランドでマオリ語の国名が正式な国名のひとつとして扱われているのは、そういった歴史を直視した上で、現在何をすべきかを国民全体で判断した結果です。
オーストラリアはごく最近までかなり公然と人種差別をおこなってきましたが、今は改められています。2000年に開催されたシドニー・オリンピックで開会式の聖火リレーの最終ランナーとなり、聖火台に火を点した先住民族アボリジニの女性アスリート、キャシー・フリーマンについて、学校の教科書で知って感銘を受けたという人もいるのではないかと思います。
このような歴史的経緯・背景については、別に知らなくても、直接的には受験への影響はないかもしれませんが、少しでも知っていれば、受験を超えた意味での「学び」というものを深め、広げていくためのきっかけになることでしょう。
では、次回は「英語圏」以外の国々について見ていきましょう。
前回の練習問題の答え
前回の記事の末尾にあった練習問題の答えは、下記の通りです。
(1) イギリスの大学は世界的に知られています。(the UKを用いて)
Universities in the UK are known to the world.
The UK’s universities are famous all over the world.
……など、「世界的に」や「知られる」にはいくつか表現のバリエーションが考えられます。
(2) イギリス人は暑い天候に不慣れです。(Britishを用いて)
The British are not used to hot weather.
(The) British people are unaccustomed to hot weather.
今回は練習問題はありません。
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