これを英語で書けますか? 世界各国の名称 (3) 英語圏編・その2(イギリス)

Photo by Miguel Mendez (CC BY 2.0)

書こうとすると意外と書けないかもしれない「国の名称」についてのコラム、3回目の今日は、いよいよ英語の母国、イギリスです。

第1回目は、英語圏以外の西欧諸国について、ざっと見ました。第2回目では、現在「英語を使う国」として一番存在感のあるアメリカ合衆国(米国)について、少し詳しく見ました。こうやって見てみると、仮に「国の名前なんか、わかりきっている」と思っていても、意外と知らなかったり、はっきりとはわかっていなかったりするところに気づくこともあると思います。そういうところは、なるべく早い段階で、確実に知識として定着させてしまいましょう。何であれ、うろ覚えは試験本番での失点の原因になってしまいますからね。

といっても、「勉強」モードで身構える必要はありません。おやつでも食べながら、くつろいで読んでみてください。

「英語圏」とは(復習)

まずは「英語圏」について、前回の当コラムで見た図(via 英語版のウィキペディア)を再掲します。詳しい説明は、前回の記事を参照してください。

英語圏マップ

Image created by Sulez raz (CC BY-SA 4.0)

この図で明るい緑色(黄緑色)で塗られているのが「英語圏」の中心的な国々ですが、それらの国に「英語」という言語が広まったのは、イギリスから人が移り住んでいったためです。今回はそのイギリスのお話。

このイギリスという国がなかなかにややこしいのです。少し長ったらしくなりますが、お付き合いください。

イギリス: the United Kingdom, the UK, Great Britain


「英語」といえばアメリカ、というイメージがあるかもしれませんが、英語自体は「英」の「語」です。「英」は「英国」、つまりイギリスです。

正式名称が長い

イギリスの正式名称は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」と言います。英語で書けば、the United Kingdom of Great Britain and Northern Irelandです。Great Britain(大ブリテン島)は、ヨーロッパ大陸の西の方、フランスの北側の洋上に浮かんでいる2つの島のうち、東側にある大きいほうの島の名称(このGreatには「偉大な」という意味はありません)。西側の小さいほうの島はアイルランドです(アイルランドについては、次回の当コラムで取り上げます)。

普段は短い名称を使う

この長たらしい正式名称は、小学校のときに早口言葉のようにして遊んだことがある人も多いのではないでしょうか。実際、日本語でも英語でもこんなに長い国名は普段は使いません。日本語では「イギリス」や「英国」と言いますが(語源は後述しますね)、英語では、正式名称の後半のof以下を省略して、the United Kingdomもしくはthe UKと言うのが普通です。あるいは、Great Britainと言うこともあります。この言い方だと、地理的に厳密に見ればNorthern Irelandが入らないのですが、オリンピック&パラリンピックの英国代表がTeam GBと称するように、Great Britain(またはもっと短くしてBritain)で北アイルランドを含むイギリス全体を指すことが、現在では一般化しています。

細かいことですが、the United Kingdomのほうには定冠詞のtheがあり、Great Britainのほうには冠詞がないということに注意してください。

【例文】

We travelled around the United Kingdom last spring.
(昨春、私たちは英国を旅して回った)

This overcoat says it’s made in Great Britain.
(このコートには、英国製という表示がある)

Great Britain(大ブリテン島)を構成するもの

194px-United_Kingdom_colorsGreat Britainという島を構成するのは、England(イングランド)とWales(ウェールズ)とScotland(スコットランド)です。この地図で、赤いのがイングランド、緑がウェールズで、青く塗られているのがスコットランドです。(西側にある島の東北の一角、クリーム色のところが北アイルランドです。)

このあたりのことは、サッカーの国別代表を見るとわかりやすいと思います。サッカーでは「英国代表」は存在しません。英国の代表チームは、「イングランド代表」、「ウェールズ代表」、「スコットランド代表」、「北アイルランド代表」に分かれています。なので、イングランド代表がワールドカップに出ても、ウェールズの名プレイヤー(現在ではガレス・ベイルやアーロン・ラムジー、かつてはライアン・ギグズといった選手たち)を見ることはできません。

ややこしいのですが、第二次世界大戦前までは、EnglandでUK全体を表すことが慣例となっていました。現在でも、アメリカ合衆国の英語では、UKを言うときにEnglandという語を使うことが多くありますが、その感覚でイギリス人に向かってEnglandだのEnglishだのという語を使うとむっとされることもあるので気をつけましょう。先方がEnglandの人ではなくWalesやScotlandの人であるかもしれませんからね。

【例文】

Takashi: Naoto, this is Ian. He’s an English friend of my brother’s.
(タカシ: ナオトくん、こちらはイアンさん。うちの兄のイギリス人/イングランド人のお友達です)

Naoto: Hi, Ian. Nice to meet you.
(ナオト: イアンさん、どうもです。お会いできてうれしいです)

Ian: Nice to meet you too, Naoto. By the way, I’m not English. I’m from Scotland.
(イアン: こちらこそ、お会いできてうれしいです、ナオトさん。ところで、ぼくはイングランド人ではありません。スコットランドの人間です)

Takashi: Oh, I’m sorry. I didn’t mean to offend you. I should have said “British” instead of “English”!
(タカシ: あっ、申し訳ないです。気を悪くさせるつもりはなかったんです。「イングリッシュ」ではなく「ブリティッシュ」と言うべきでしたね)

Ian: That’s okay. I know it’s a bit complicated.
(イアン: いいんですよ。ちょっとややこしいですよね)

ちなみに、北アイルランドの人には、Englandと関連づけられるよりもIrelandと関連づけられることを嫌う人と、Irelandと関連づけられることは喜ぶがEnglandと結び付けられると不快感マックスになる人の2つの流派があります。

なぜこんなことになっているのかを説明し始めるとたぶん書き終わらないので、その説明はまたの機会に譲ることにしましょう。要は、不用意に「イギリス」=Englandと置き換えないようにすべきということです。

日本語での「イギリス」という呼称の由来は

それではなぜまた日本語では「イギリス」などという呼び方をするのでしょう。見た感じ、Englandが由来っぽいですよね。実は日本語の「イギリス」の語源はポルトガル語のInglez(イングレス)で、これがEnglandに基づいたものなのです。

ポルトガル語でなぜEnglandに基づいた呼び方をするのかということには、歴史的な経緯があるのですが、「日本語には、昔、交流のあった国での呼び名が入ってきて、そのままになっている」と考えてよいです。より詳しいことは、ウィキペディアにまとまっています(よくまとまっていると思うのですが、それでも、読んですっとわかるとは言い難いかもしれません)。

「英国」というのは、「イギリス」に漢字をあてた表記、「英吉利」に由来する表現です。中国でも同じ表現をするそうですよ。

このように、「イギリス」について説明するとどうしても長くなってしまいます。きりがないのでこのあたりにしましょう。重要なのは、「イギリス」という国を表すには、the United Kingdom (the UK) か、Great Britain (Britain) という表現を用いる、ということです。

EnglishはEnglandの形容詞形

さて、Englishと呼ばれる言語、つまり「英語」は、本来、「Englandの言語」です。それが、イングランドが全域を支配下に置いた大ブリテン島全体で使われ、やがてイングランド……いや、イギリスが世界的に植民地を拡大するにつれて世界中に広まったのです。

EnglishはEnglandの形容詞形で「イングランドの」の意味です(名詞で「イングランド人」の意味にもなります)。「英語」という言語は、そもそもは「イングランドの言語」という意味なのです。

Scotlandの形容詞形はScottish, Walesの形容詞形はWelshです。Northern IrelandについてはNorthern Irishと言います。

【例文】

Ewan McGregor is a Scottish actor.
(ユアン・マクレガーはスコットランドの俳優である)

The Welsh national football team reached the semi-finals of UEFA Euro 2016.
(サッカーのウェールズ代表は、2016年の欧州選手権で準決勝に勝ち進んだ)

一方で、イングランドであるかスコットランドであるかなどを問わずに「イギリスの(英国の)」という意味を表すには、Britainの形容詞形であるBritishを使います。Britishには「イギリス人」という意味もあり、〈総称のthe〉を用いて「イギリス人一般」を表すことも頻繁です。

【例文】

The United States received the most British export goods last year.
(昨年、イギリスの物品の最大の輸出先はアメリカだった)

British people[The British] are extremely fond of dogs and horses.
(イギリス人は、犬や馬をたいへんに好む)

ただし、Britishという言語(「ブリテン語」)はありません。Britainで使われる言語はEnglishです。

ややこしいですね。

Britainの中の諸言語

ちなみに、スコットランドにはScottishという言語(スコットランド語)があります。これは昔、英語から分離した言語で、英語と非常によく似ているので、「英語の方言」という位置づけもありえます。これとは別に、英語とは全然別の「ゲール語」という言語もスコットランドでは話されています(スコットランド・ゲール語と言います)。

ゲール語は英語が属する系統とはまったく別のケルト語派という系統の言語で、そのケルト語派の言語にはウェールズで使われるWelshという言語(ウェールズ語)もあります。イングランドの支配下で一度は滅びかけたウェールズ語ですが、20世紀末に英語と同等の地位が認められ、以降、ウェールズでは行政の文書や道路標識などが2言語化しています。下記は2009年に撮影された道路標識で、英語でCrescent Roadという通りの名は、ウェールズ語ではFfordd Cilgantです。英語のIsland Greenはウェールズ語ではY Werddonです。両者に言語上のつながりがまったくないことがおわかりになると思います。
ウェールズの道路標識

イギリスに関するトリビア

イギリスの首都はロンドン (London)。ウェールズ、スコットランド、北アイルランドそれぞれに自治議会・政府があります(ただし、自治の程度はさまざまです)。ウェールズはカーディフ (Cardiff) に、スコットランドはエディンバラ (Edinburgh) に、北アイルランドはベルファスト (Belfast) に自治議会・政府が置かれています。

まとめ

「イギリス」はthe United Kingdom (the UK)か、Great Britainと言います。「イギリス人」はBritishですが、イングランド、ウェールズ、スコットランドそれぞれのどこかに帰属意識を持っている人は、それぞれ、English, Welsh, Scottishと自認していることが多いです。包括的にはBritishを使いますが、北アイルランドの人の中には、British扱いされると気を悪くする人もいます。

前回、今回と「アメリカ」、「イギリス」を見てきたところで、次回はこの2カ国以外の「英語圏」の国々をまとめて取り上げることとしましょう。

次回までの練習問題

次の日本語文を、英語で表してみましょう。

(1) イギリスの大学は世界的に知られています。(the UKを用いて)
(2) イギリス人は暑い天候に不慣れです。(Britishを用いて)

前回の練習問題の解答は、下記の通りです。

(1) 私はアメリカの歴史に興味があります。(Americanという単語を使わずに)
I’m interested in the history of the United States.
※the United Statesの代わりに、the U.S.A. など別の表現を使ってもよいです。

(2) アメリカの映画は世界中で見られています。(Americanという単語を使って)
American movies are watched[seen] all over the world.

 

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