「聞いてわかる英語の力をつけるために」という主旨での当コラム、今回は「楽しみながら」という点に着目して、音楽を教材として使ってみましょう。
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楽しみながら身につけた言葉の知識は、定着がよい。
リスニングに限らず、リーディングなどについても、「楽しみながら」勉強することで学習効率が上がり、知識の定着がよくなる――このテーマでは、数十年前から研究論文が出されたり、その目的での教材が開発されたりしてきました。特に論文などを参照しなくても、みなさん、日常の中で実感しておられると思います。子どものころにお遊戯をしながら数を数えたりしたのも、こういうことですね。
例えば野球が好きな人は、お気に入りのチームや選手についてのニュースを英語で読んだり、インターネットを利用して英語のラジオニュースを聞いたりすることで、最新の情報が得られるだけでなく、プレイについての具体的な英語表現なども知ることができます。サッカー、プロレスなど他のスポーツや、映画など他のトピックでも同じ。ネットという非常に優れた道具が常に手の届くところにあるのだから、それを積極的に活用し、スポーツやエンタメを通じて英語の勉強をしているという人は、社会人も含めて大勢います。
そうやって楽しみながら覚えた言葉というものは、忘れづらいものです。日本語で、映画・ドラマやアニメ、マンガの「名セリフ」を覚えて、友達同士、半ばふざけながら自分で自分の身の回りのことに応用していくということはだれもがやったことがあると思います。日常生活の中で使わないような古風な言い回しも、時代劇を見てまねしているうちにしっかりと記憶に刻み込まれますよね(普段使わない言葉なのに、不思議です)。英語でも同じことが起こります。英語の映画やドラマのセリフを、自分の日常という文脈の中でちょっとしたときに使ってみるという、半分遊びのような勉強方法があります。
どちらもある程度長期的な積み重ねが前提の勉強方法ですが、1日5分でも10分でも、時間が作れさえすれば、毎日の積み重ねは苦にならずに進めていけるという点で、おすすめの学習法です。
洋楽のビデオを見ながら聞き取り
そのように「楽しみながらやると、効率よく定着もよい」ということを前提に、音楽(洋楽)の歌詞を使った学習方法を、具体的にご紹介していくことにしましょう。
使うのはYouTubeにアップされているビデオです。ここでは基本的にアーティストや所属レーベルの公式アカウントのビデオを使いますが、時間が経過すれば削除・地域限定公開にされてしまうケースもないとはいえないので、もしあなたがこのコラムをお読みになっているときにビデオが消えてしまっていたらごめんなさい。曲名で検索しなおしてみてください。執筆時点ではいずれも、日本からの接続で閲覧できています(時間が経過すると、「アメリカのみの公開」のように変更される場合もあるかもしれません)。
YouTubeの音楽ビデオには、歌詞をメインに扱ったビデオ、通常の音楽ビデオだが字幕(クローズド・キャプション: CC)で歌詞を表示させることができるもの、CCを含め一切歌詞が表示されないものの3通りがあります。
みなさんそれぞれが自分の好きな曲で聞き取り練習ができるよう、今回はまず、3通りのビデオをご紹介しましょう。
歌詞がメインの「リリック・ビデオ」
近年、アーティストが、通常のミュージックビデオとは別に、lyric video(最初から歌詞を組み込んだオフィシャルのビデオ)を作成することが増えてきています。
アメリカの女性シンガー、アリアナ・グランデが、One Last Timeという曲でこのタイプのビデオを制作していますので、早速見てみましょう。ちょうどカラオケのビデオのように、歌のペースに合わせて歌詞が表示されます。単語やフレーズの聞き取りの練習に入る前に、まずはこの「ペースに合わせる」ことを意識して、1分10秒のところまで見てください。
いかがですか? ペースについていけていますか? けっこう早いですね。
「できるよ」という人はすばらしい。この調子で最後まで聞いていきましょう。
「ちょっと難しい目かな……」と思った人は、練習にはこのレベルでちょうどよいくらいなので、このまま、最後まで聞いてみましょう。
「ついていけない!」という人は、サビの部分はゆっくりしているので、サビだけ繰り返し聞いてもいいですよ。0:39~0:55の “So one last time, I need to be the one who takes you home. One more time, I promise after that I’ll let you go” のところです(ただし下線部の箇所は元からはっきり聞こえないので、あまり気にせず聞き流してペースに乗るようにしましょう)。あるいは、もう少しゆっくりした曲で練習したほうがよいかもしれません。同じアリアナ・グランデのInto Youという曲のリリック・ビデオで試してみてください。最初の1分ほどはゆっくりしたテンポの曲です。
アリアナ・グランデの声質は、歌詞の聞き取りがかなり難しい声質だと思いますが(彼女の声は音楽としては魅力的なのですが、かすれていたり、こもって聞こえたり、音が欠落したりするところが多くあります)、「ペース」に慣れること(流れに乗れるようにすること)を主目的として聞きながら、単語・フレーズとして聞き取れるところや、「こういうリズム・発音なんだ」ということがつかめるところもあったと思います。例えば、One Last Timeの0:16~0:17の “Feel like a failure”, 1:12の “I don’t deserve it”, 1:23~24の “I should’ve been more careful” (should’ve = should have) のところ。Into Youでは0:26~0:28の “So name a game to play”, 0:35~0:36の “Look what you started” のところなど。
このタイプのリリック・ビデオを作っているアーティストは、それぞれが凝ったビデオをYouTubeにアップしています。勉強抜きで、単に見て楽しめるビデオですから、自分の好きなアーティストや曲を探してみてください。〈”One Last Time” lyric video〉といったように、〈曲名またはアーティスト名 lyric video〉で検索すれば見つかります(曲名は引用符でくくると効率よく検索できます)。ただし、アーティストの公式アカウントではなくファンが作ってアップしているビデオが検索結果に上がってくることも多くあります。
リリック・ビデオである程度聞き取れるようになって、歌詞がだいたい頭に入ったら、歌詞がまったく表示されないビデオを使って復習してみるのも役立つでしょう。アリアナ・グランデのOne Last Timeは、観客による合唱も感動的なライヴの映像があります(BBCのアカウントがアップしています)。2017年5月、イギリスのマンチェスターでのコンサート会場で、終演を待ち伏せしていた男が、生のアリアナを見て気分が高揚した状態で帰途につこうとする観客たちを無差別的に標的として自爆するという卑劣なテロ攻撃がありました。このライヴは、その犠牲者たちを追悼し、重傷を負うなどした被害者支援のための基金を立ち上げるためのイベントで、数多くのスターたちが参加しています。こちらの記事に詳しいことが書いてあるので、興味がある方は、ちょっと読んでみてください。
曲やアーティストが気に入ったら、デジタル・ダウンロードなりCDなりで曲を購入して、いつでも自分の好きなときに再生し、お部屋の中で聞き取りながら歌ったりすると、さらに定着度がよくなります。
字幕(CC)で歌詞を表示させることができる音楽ビデオ
以前、「『聞いてわかる』英語の能力を身につけるために (1) YouTubeの字幕を使おう」の記事で紹介したように、字幕(クローズド・キャプション: CC)を表示させることができるようになっているビデオが、音楽ビデオの中にもあります。例えば次のデミ・ロヴァートのStone Coldの音楽ビデオがそうなっています。先の記事で紹介した手順で字幕を表示させ、見てみてください。
失恋して悲しみのどん底にある女性が「石のように冷えきっている」という心情を歌った悲しい歌ですが、デミのパワフルな歌声と字幕で、歌詞をたどってみてください。
このタイプのビデオは、〈曲名またはアーティスト名 字幕〉という検索ワードで探せると思います。〈”Stone Cold” 字幕〉〈”Demi Lovato” 字幕〉といった感じです(アーティスト名も引用符で囲んでおくと、効率がよいです)。
ご紹介した曲は、下記のアルバムに入っています。
CCを含め一切歌詞が表示されないビデオ
YouTubeのビデオで最も多いのがこのタイプ。このままでは聞き取りの練習には使いづらいのですが、歌詞を別途ネットで検索して閲覧することができれば、リリック・ビデオや字幕の表示ができるよう設定されているビデオと同様に活用できます。
このためには、YouTubeのビデオを再生しながらブラウザでサイトを表示させるのに手間がかかり、表示画面も小さくなってしまうスマートフォンよりも、複数のタブやウィンドウを同時に開いたり、別のソフトを同時に走らせることが無理なく快適にできるパソコンを使うのが、やりやすいと思います。
今回は歌詞の確認の方法を説明することが目的なので、音質があまりよくないライヴの音源を使ってみますが、みなさんが実際に練習するときには、なるべく音質のよいものを使ってくださいね(音質についても、先日お話しした通り、ある程度よいものでないと、聞き取りの勉強になりません)。
曲は、アンジー・ゴールドという歌手のEat You Upを使ってみましょう。アンジー・ゴールドは80年代のディスコ/ユーロビートでヒットを飛ばしたシンガーです……というより、2017年に大ブレイクした登美丘高校ダンス部による「バブリーダンス」で使われていた荻野目洋子の『ダンシング・ヒーロー』の原曲。映像は、アンジー・ゴールドのYouTubeアカウントでアップされているもので、2012年の屋外ライヴです(最初の45秒くらいは、ライヴが行われた街の様子が写されているので、この下の動画埋め込みでは、そこは飛ばして再生するように埋め込んでおきます)。
曲名・アーティスト名がわかっている場合、歌詞は、Googleなど検索エンジンで〈曲名 lyrics〉で探せば見つかります。この場合は〈”Eat You Up” lyrics〉で探せます(曲名は引用符でくくるとうまくいきます)。同じ曲名で複数のアーティストの曲がある場合は、ここにアーティスト名を足します。〈”Eat You Up” Angie Gold lyrics〉となります。英語圏にはロックやポップスの歌詞を専門で掲載しているサイトがいくつもあり、それらのサイトの中から該当する曲の歌詞のページが、検索結果に出てきますので、そのひとつ(例えばこちら)を表示させましょう。(ときどき、アーティストの公式サイトに歌詞がアップされていることもありますが、多くは外部の歌詞サイトで見ることになると思います。)
※ちなみに、Eat You Upの歌詞は、『ダンシング・ヒーロー』とはまったく違って、「愛してるよなんて、よくもまあぬけぬけと嘘をついてくれたわね。あんたなんか食って吐き出して、踏んづけてやる。逆にひどい目に合わせてやるんだから」といった内容です。
よい音質で繰り返し聞きたい場合は、この曲単独でデジタル・ダウンロードも可能です。
まとめ
今回は準備編ということで、YouTubeの音楽ビデオを英語のリスニングに活用するための方法を説明してきました。歌詞が最初から表示されている「リリック・ビデオ」が一番使いやすいかと思いますが、聞きたい曲で「リリック・ビデオ」が制作されていない場合は、ネットで歌詞を検索するなり、YouTubeの字幕(CC)の機能がオンにされていないかどうかを確認したりして、自分で歌詞を表示させることができます。
もちろん、スマホの音楽プレイヤーで歌詞を表示させることができれば、その機能を使ってもよいです。
音楽には言葉だけのニュースや演説などにはないパワーがあります。気分を上げてくれたり、勇気付けてくれたり、浮き足立っているのを落ち着けてくれたりします。そういった音楽の力も借りながら、楽しく勉強していきましょう。
次回はさらに実践的に、どの曲でどの部分に注目して聞けばリスニングの力がつくかといったことを、何本かのビデオを見ながらお話ししたいと思います。
※勉強中にYouTubeなんか見てると、親御さんから「ちゃんと勉強しなさい!」と怒られるかもしれませんが、その場合は「勉強していることの証明」として、このコラムを見てもらってください。