英語を「聞いてわかる」能力をつけるための勉強法についてご紹介してきたこのコラム、今回がいよいよ最終回です。
リスニング対策として、これまで、英語字幕のついたニュースクリップやインタビューの映像を利用した聞き取りの練習をしたり(→記事一覧)、音楽を聴いて英語の音の特徴をつかむ練習をしたり(→記事一覧)してきました。最終回では、これまでの総まとめとして、シャドウイングとオーヴァーラッピングについて、お話ししましょう。
リピーティング、オーヴァーラッピング、シャドウイング
耳からインプットされる英語を手で書いてアウトプットするのをディクテーションと言います(これについては11月にお話しする予定になっています)。今回お話しするのは、口頭でアウトプットする方法です。手ぶらでできる勉強法です。
リピーティング (Repeating)
最も初歩的なのが「リピーティング (repeating)」です。みなさん、学校でもおなじみのやり方ですね。”Repeat after me.” と言って先生が読み上げる英文を、そのあとに続いて読み上げる、という方法です。このとき、先生が “Would you like some coffee?” としっかり英語で読み上げているのに、教室の空気に流されてわざと過度に「カタカナ」っぽい調子で「ウッジュー・ライク・サム・カフィ~?」などと繰り返すことが多いかもしれませんが、それでは勉強法としてはほとんど効果がないので注意してください。リピーティングにおいて重要なのは、英語の音(特に連結、同化、脱落)とリズム、英語らしい音・リズムを自分で再現することです。
教室では空気的にいろいろやりづらいかもしれませんが、自宅でなら英語らしい音を口にする練習はしやすいでしょう。
自宅学習する際には、〈お手本の音声を再生〉→〈一時停止して、自分で音読〉という流れになります。このとき、読み上げる文のテキスト(文字データ)は見ていてかまいません。本コラムでは、この回で紹介したフロリダの高校生、レベッカさんの映像を部分的に使ってみるとやりやすいでしょう。0:02~0:09のところでやってみてください。少し速いので、リピートするときはゆっくり目にやっても構いません。
オーヴァーラッピング (Overlapping)
リピーティングのひとつ上のレベルにあたる練習が、「オーヴァーラッピング (overlapping)」です。あとから繰り返すのではなく、音声を再生させながら、同時にテキストを読み上げるという練習法です。ちょうど、好きな映画やドラマを見ながら、よく知っている台詞を画面の中の俳優と同時にテレビの前でつぶやく感じです。リピーティング同様に、英語の音を英語のリズムで自分の口から出すことを意識してやってください。
これも、上と同じく、この回で紹介した映像で、カイさんの発言部分を部分的に使って練習してみましょう。こちらは1:22~1:29のところがやりやすいでしょう。字幕を見ながら、耳で聞くのと同時に口で唱えます。口が慣れないと大変かもしれませんが、スピードに遅れて取り残されないように注意してください。
シャドウイング (Shadowing)
そして最高レベルの練習方法が「シャドウイング(シャドーイング: shadowing)」です。これは、テキストを見ないで、耳から入ってくる音声をなぞるという練習法です。耳から入ってきたのを確認して口で再生するので、タイミングは少し遅れ目になります(0.1秒から0.3秒程度)。イメージとしては、「♪かえるの歌が聞こえてくるよ」の歌の輪唱を思い浮かべてください。あれをもっとせかせかとやる感じです。
シャドウイングの練習は、自分が好きな教材でやるのが一番です。映画でも歌でも、何でも自分が気に入っている映像・音声を活用してください。
シャドウイングは、同時通訳者になるための勉強などで用いられる高度な練習法です。発音の基礎ができていないと、シャドウイングをやってもほとんど意味がないので、自分で無理目だなと思ったら、リピーティングやオーヴァーラッピングに戻って、英語の音とリズムを口で再現することに慣れましょう。
解説動画
リピーティング、オーヴァーラッピング、シャドウイングについて、言葉で説明してもわかりづらいかもしれません。その場合は下記の解説動画(英語と日本語の字幕つき)を見てみてください。YouTubeには他にも同種の解説動画がありますが、筆者が見た中でこの動画が最もわかりやすく、短かったです(筆者の個人的好みかもしれませんが、素人がおもしろくもない余計なおしゃべりをして長さを水増ししているだけで、見終わるまでに7分も10分もかかるような動画より、余計なものなしで3分で終わる動画を見て、浮いた4分で練習問題をやったほうがずっとよいです)。
何のためにこんなことをやるのか?
リピーティング、オーヴァーラッピング、シャドウイングは、英語の音を自分の口から出すという練習です。「聞いて」わかる能力とは、一見、関係なさそうに見えるかもしれませんが、大ありなのです。
人は自分で口から出せる音は認識できます。そうでないと認識できないか、認識がいい加減になります。例えば筆者はロシア語はまったくできないのですが(文字も読めません)、ロシア語を聞いても「どぼどぼも、もごもごご」というようにしか認識されません。筆者の友人のイギリス人は、今は日本語ぺらぺらですが、日本語を勉強する前は何を聞いても基本的に「ヤップヤップヤップ」としか聞こえなかったそうです。
人間、知らない音は認識できないのです。認識できないというか、自分の頭の中で参照可能なデータベースの一部にすることができないのです。私たちが鶏の鳴き声を聞いて「コケコッコー」と認識するのは、鶏が本当に「コケコッコー」と言っているからではなく、あの声を聞いたときに頭の中でデータベースを参照して「コケコッコー」を引っ張り出してくるからです(ちなみに、アメリカの人は「コケコッコー」の代わりに “cock-a-doodle-doo” と認識します)。
このように、データベースと照らし合わせて「あ、この音か」と認識できる音を増やしていくことが、外国語学習では必要不可欠です。そしてそのために効果的なのが、自分でその音を出せるようにすることです。音を知ったら、自分でその音を使えるようにすることで、認識できるようになるのです。筆者も「TH」の音や「R」の音は、自分でしっかり言えるようになったあとで、認識が楽になりました。
発音の勉強を本気でやり始めれば、口腔内での舌の位置とか息の強さ、口の周りの筋肉の使い方といったこともマスターしなければなりませんが、大学受験の段階ではそこまでやらなくてもよいでしょう。ただ、発展的に興味がある方は、下記の本などを見てみてください。
音楽を使った練習法
実際、大学受験でのリスニング対策としては、テキストなしで音を追いかけるシャドウイングまでする必要はないと筆者は思います。無理してシャドウイングするよりも、テキストを見ながらするオーヴァーラッピングを何度も繰り返したほうが、入試レベルでは効果が高いでしょう。
その素材としては、文学作品をプロの俳優が音読している「オーディオブック」(CDやデジタル・ダウンロードで入手できます)を使う手もありますが、より手軽には、音楽を使ってカラオケ感覚で一緒に歌うという方法があります(キーが合わない場合や歌が苦手な場合、歌わなくても、同じペースでつぶやくだけでもよいです)。
といっても、元々知ってる曲や好きな曲では「歌を歌う」ことが目的になってしまって英語の練習にはなかなかなりづらいかもしれません。そこで、以下でいくつか、2018年の大学受験生のみなさんには馴染みが薄そうなものを中心に、オーヴァーラッピングしやすそうなテンポとリズムの曲をご紹介することにしましょう。歌詞は以前の記事を見て表示させてください。
Carole King – I Feel the Earth Move
キャロル・キングは、1970年代のアメリカを代表する女性シンガーソングライターの1人。3分の曲すべてを一緒に歌う必要はありません。0:08から0:24まで(および、そのあとも何度か繰り返される)曲のサビの部分だけでOKです。”I feel the earth move” の〈知覚動詞+目的語+原形不定詞〉、”I feel the sky tumbling down” の〈知覚動詞+目的語+現在分詞〉がポイントです。曲の内容は、「あなたと一緒にいると、ふわふわして地に足がつかない感じがする」というようなラブソングです。
Snow Patrol – Shut Your Eyes
スノー・パトロールは90年代にデビューした北アイルランド出身のバンド。この曲は全体的に、歌詞の英語のリズムと曲がぴったり合ってるのがとても印象深いのですが、特に1:02から1:18の “And when the worrying starts to hurt, and the world feels like graves of dirt, just close your eyes until you can imagine this place, yeah, our secret space at will” のくだりをなぞってみてください。口を動かすのがけっこう大変かもしれませんが、とてもよい練習になります。
Red Hot Chili Peppers – Under The Bridge
現在も一線で活躍するアメリカのバンド、RHCPの90年代のヒット曲で、ライヴでは観客の大合唱となる曲です(ライヴのほうを聞いてみたい方はこちら)。サビの部分で、1:28から1:50にかけて2度同じ歌詞が繰り返されますが、そこをなぞってみてください。曲の内容は、「天使の町」つまりロサンゼルスでの孤独を歌ったものです。
CHVRCHES – Never Say Die
Vは古い表記法でUの代わりに使われていた文字で、バンド名はChurchesと読みます。2018年のフジロック・フェスにも出演したスコットランドのバンドです。曲名は「死ぬとか言うな」という意味で、「悲観するな」という励ましの慣用句になっていますが、この曲の場合はより文字通りに近い意味で用いられていますね。”Wasn’t it ~?”, “Weren’t you ~?”, “Didn’t you say that?” の否定疑問文の繰り返しが生じさせる流れに乗って、リズミカルな英語を練習してみましょう。
Pharrell Williams – Happy
この曲はご存知の方も多いかもしれません。2013年にリリースされたとき、全世界でこの曲に合わせて踊る人々のビデオが制作され、YouTubeなどにアップされました。ここではアーティストの公式チャンネルがアップしているオフィシャルのミュージック・ビデオを見て一緒に歌ってみましょう。画面内で字幕(CC)が表示されるはずです。特にサビの部分で、”Clap along if you feel like a room without a roof” の「L」と「R」に気をつけてなぞってみてください。自分でしっかり発音できるようになると、聞き分けもできるようになってきますよ。
Taylor Swift – Shake It Off
最後、これもみなさん知ってる曲かもしれません。日本でのリリース元のレコード会社が訳詞を字幕につけたビデオをアップしているので、余裕のある人は英語の歌詞を見ずに(日本語の訳詞から英語を考えて)、一緒に歌ってみてください。歌詞の意味はとてもはっきりしているし、音の面でも特に連結や脱落に関するよい練習になる曲です。曲名になっている部分はサビで繰り返されていますが、「シェイク・イット・オフ」ではなく「シェイキッタッフ」というように聞こえるはずです(最後の「フ」はfuではなくfのみ)。
まとめ
近いうちに、大学受験の英語は大きく変わろうとしています。現時点では、具体的にどう変わるのか、はっきりしていない部分もかなりあります。
ですが、要するに、いわゆる「ペーパーテスト」では点数化できない能力が問われるようになるということははっきりしています。今、受験の準備を始めている高校生のみなさんは、その対策をしていかなければならないということで、なかば五里霧中のような状況かもしれません。
英語を読み、書き、聞き取り、話す能力について「4技能」と再定義されて看板に掲げられるようになったのは最近のことで、英語を教える側としては、正直、これまでのやり方だけでは対応できなくなる部分もありますが、「4技能」の考え方そのものは新しいものではないし、他人に英語を教えるという仕事をしている人ならば、通過していて当然のものです。
本コラムでは、「4技能」のうちの「聞き取り」について、筆者の知っていることを、ウェブのコラムという媒体で可能な限りお伝えしてきました。聞き取りは何度練習しても「これでもう十分」とはなりづらいものです。ご紹介した映像などは、何度でも繰り返し見てみてください。
引き続き、これから大学を受験するみなさんが楽しみながら勉強を続ける上で、少しでもお役に立てることを願っています。
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