「聞いてわかる」英語の能力を身につけるために (5) フロリダの高校生たちの意見を聞いてみよう

Photo by Barry Stock [CC BY-SA 2.0], via Wikimedia Commons

「英語が英語として聞き取れる」とはどういうことか

リスニングの力をつけるための準備講座として進めてきた当コラム、5回目となる今回は、アメリカの高校生たちのリアルな音声を素材として使いましょう。

前回見たマララ・ユスフザイさんのインタビューとはまた違った速度感が感じられると思いますが、このように、なるべく多種多様な話し方・話され方に接しておくことも、基礎力全体を底上げする上では有効です。

よくありがちなことなのですが、「だれか特定の人(例えば学校のALTの先生)の話は聞き取れるが、他の人の話は難しい」という場合、その特定の人の話し方に慣れているだけで、実のところは、英語が英語として聞き取れているわけではないのかもしれません。

では「英語が英語として聞き取れる」とはどういうことか。日本語でも、テレビやラジオのアナウンサーのようにハキハキとしゃべる人もいれば、早口の人もいるし、もごもごとこもったようなしゃべり方をする人もいますね。「日本語で意思疎通ができる」というには、そのどちらも聞き取れる必要があり、聞き取りづらいところは、聞く側が適宜補って考えたり、類推を働かせたりして聞いているわけです。

例えば、「今日は、暑いね」とはっきり言う人の発言も、「きょーあっついね」と早口で雑に言う人の発言も、「きょう、つぃね」ともごもごとしゃべる人の発言も、どれも等しく「今日は暑いね」として脳で処理できるのは、そのように補ったり類推したりしているからです。英語でもそのような処理ができるようになることが、「聞く」能力と「話す」能力の分野では求められているのです。

もちろん、大学入試のリスニングではそこまでの能力は問われませんし(リスニングの試験で使われる英語は「標準的」とされる発音・話し方のものです)、そこまでの能力をつけていっても試験で求められている能力を超えてしまうことになりますから、その分の時間やエネルギーがあるのなら、他の教科に向けたほうが全体の効率という点ではプラスになるでしょう。

しかし、大学入試を超えて「英語を使える日本人になる」ためには、普段日本語を無意識のうちに補ったり類推したりしながら聞いているのと同じように、英語も聞けるようになっていくことが必要です。そのために、早いうちにいろいろな話し方に接しておくことは重要なのです。そのことは、頭の片隅に置いておいてくださいね。

(ただし、試験本番で流れてくる音声が「自分が苦手なタイプ」だった場合に対応できないと困るという極めて実利的な理由から、ある程度は異なるタイプの話し方に接して慣れておくことは、大学受験生としても必要です。)

フロリダの高校生たちが自分の意見を述べるビデオ

では、これからビデオを見ていきますが、本編に入る前に、このビデオの背景を説明しておきましょう。この背景を踏まえていなければ、ビデオで言っていることがまるでわからないかもしれませんから。「説明されなくても知ってるよ」という方は、このセクションは飛ばしてください。

フロリダ州高校銃乱射事件

2018年2月14日、アメリカ、フロリダ州のパークランドという町にある高校の校内で、銃乱射事件が起きました(詳細はWikipedia英語版によくまとまっています)。生徒14人と、生徒を守ろうとした教職員3人の合わせて17人を殺し、さらに17人を負傷させた銃撃犯は、この高校を退学処分となっていた19歳の男でした。

銃乱射で使われたのは、アメリカでの銃乱射事件で用いられることが多いタイプの軍用ライフルでした。アメリカでは個人の銃所持は憲法で保障される権利とされていますが、それにしても、戦場で敵を殲滅することが目的の軍用ライフルなんか、護身用であれ何であれ、町中で一般人が使う機会などないはずです。しかし実際には、このような事件が起きるたびに、(広く護身用にも使われるピストルなどとは別に)そういう武器が使われていることが明らかになり、そのたびに銃規制を訴える人々の声が上がり、新聞などでは「疑問」が書き立てられ、そして……現状としては、何も変わらずに次の銃乱射事件が起きるということが繰り返されています。

立ち上がった高校生たち

アメリカ国内ではまた違うのかもしれませんが、特に2012年12月のサンディフック小学校銃乱射事件でも銃規制のムードが高まらなかったのを目撃して以降、世界的には、アメリカで銃乱射事件が起きても、「またか」としらけたムードで受け取られるのが基本です。新聞などの論説記事も「同じことを延々と繰り返している」と指摘し、「いつまでこれが続くのか」と憤るのがせいぜいです。

しかし、バレンタイン・デー(女性が男性にチョコを贈るという日本の風習はやや独特ですが、世界各地で、恋人たちが愛を誓う日と位置づけられています)に起きたこのあまりにも悲惨な事件は、これまでとの事件とは異なり、「銃社会」のアメリカを実際に動かしました。

アメリカは、みなさんご存知のとおり、州ごとに法律があります(「州法」と呼ばれます)。フロリダ州の立法府(州議会)は、事件翌月の3月に事件のあった高校の名を冠した法律を作り、事件で使われたようなライフル銃を購入できる年齢の下限を21歳に引き上げ、購入者には背景チェックを課し、高速での乱射を可能にする改造部品を禁止するなどしました。これに対し、「銃所持の自由は譲れない」とする圧力団体NRA(全米ライフル協会)は、「合衆国憲法では18歳で成人に達するので、21歳になるまでこのような銃が購入できないのは正当な権利の侵害であり、違憲である」として法廷に訴え出ています(2018年5月の本稿執筆時、その裁判はまだ進行中で、結論は出ていません)。

また、銃を販売している小売店のなかには、販売方針を変えるところも出てきました。

そのように動いたのは、フロリダ州には銃規制に理解のある人々が多くいて、議員たちも痛ましい事件に心を動かされたから……では必ずしもありません。銃撃のあったマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校(”MSD” と略されます)の生徒たち自身が、「もうこんなのはたくさんだ (Enough is enough)」、「二度とごめんだ (Never again)」と声を上げ、銃規制を求める運動を非常に効果的に進めたことが大きなうねりを作り、それが事態を動かしたのです。

特に、事件当時、卒業を控えた3年生だったデイヴィッド・ホッグさんやエマ・ゴンザレスさんの活躍は、連日、メディアで伝えられました。

この写真で左側に立つ、Canonのストラップを肩にかけた男性がホッグさん。その正面にいる黒のタンクトップで丸刈りの女性がゴンザレスさんです。

ジャーナリズムに関する科目を履修し、学校新聞の記者として活動してきたホッグさんは、銃撃が進行しているときにスマホを使って教室の外で何が起きているかを把握したり、家庭科室に隠れている生徒たちの言葉を記録したりして、事件直後からイギリスのBBCを含む各国メディアの取材に応じていました。

ゴンザレスさんは、事件からわずか3日後にフロリダ州の法廷の前でとても明確なスピーチを行なっています。今回素材とする映像とは別ですが、下記にそのゴンザレスさんのスピーチの映像を埋め込んでおきます(本コラムの1回目で説明した手順で英語字幕を表示させることができます)。

この高校生たちの運動について、ここで詳しく述べているゆとりは、残念ながらないのですが、Wikipedia英語版に詳しくまとめられているので、チェックしてみてください。

また、各報道機関でも詳しい記事が出ています。例えばアメリカのメディア、Newsweek誌のたいへんに興味深い記事が、同誌日本版で翻訳紹介されています。

共和党のマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)は生徒たちを激励するどころか、「傲慢とうぬぼれ」に「感染した」と非難。州議会は教師を含む学校職員に校内で銃を隠し持つ許可を与える案を検討し、共和党連邦議員らは銃規制を望む声に背を向ける。一見、アメリカは今回の事件をもってしても何一つ変わらないようだ。

だが、そうとばかりもいえない。事件を生き延びた生徒たちが、ソーシャルメディアを駆使し、銃規制に関する議論を変革しつつある。

……

落ち着き払い、雄弁で博識で、あり得ないほど大人びたダグラス高校の生徒たちが事件後の運動で力を発揮したのは、彼らが特殊な個性や才能を持っていたからだろうと、人々は考えている。

銃規制運動を率いる高校生は課外授業が育てた Trained for This Moment, 2018年3月15日(木), ダーリア・リスウィック(司法ジャーナリスト)

事件後の新たな校則と、生徒たちの反応をまとめたBBCの映像

さて、今回リスニングの素材とする@BBCWorldの映像は、春休みが明けたあとから、マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で「生徒は、無料で支給される透明なリュックを使って登校すること」という規則が導入されたのを受けて、生徒たちがどう反応したかをまとめたものです。

女性(レベッカさん)と男性(カイさん)の2人の自撮りのビデオなどが、1本に編集されています。前回までと同じように、「目と耳を連動させる」ことを意識して、耳から入る音声を聞いて字幕を追ってみてください。スピードは、今回も前回までと同じく、いわゆる「ナチュラル・スピード」です(センター試験のリスニングや、英語学習用の教材より速いです)。レベッカさんのビデオは音声が少し割れ気味なため、聞き取りが難しく感じられるかもしれません。音質が原因であまりに聞き取りづらく感じられる場合は、カイさんのところだけに集中して聞いてみましょう。


いかがでしたでしょうか? なかなか見ごたえがあったと思います。

カイさんのしょっぱなの発言には、「へっへっへとか笑っちゃって、男子ってのは、これだから」と苦笑せざるを得ないのですが、きっと彼なりの問題意識なのでしょう。実際、そういう発想で「プライバシーを侵害する透明バッグ」への抗議として持ち歩くために、初めて自分で女性の生理用品を手にとってみたという男子生徒が、「サイズとか値段とか、知らなかったことばかりで勉強になった」と述べていることなどがBBCの記事にまとめられていますので、余力のある人は見てみてください。

さて、リスニングの練習をする上でのビデオのポイントを見ていくことにしましょう。

聞き取れないくらい弱く発話されているところには、こだわらない

bbc-world-msd-bag

レベッカさんの最初の発言の第2文、”It doesn’t make me feel any more secure about the fact that I can see in people’s bags.” は、どういう単語が弱く発音されているかに注目して、何度か聞いてみてください。 “(about) (the) fact (that) I can see (in) people’s bags.” と、カッコに入れた語はほとんど聞き取れないくらいに弱く、軽く発音されていますね。「聞いてわかる」ためには、そういったところにとらわれずに、はっきり発音されているところを確実に聞き取っていくことが重要です。

次に何が来るかを予測する

続いてカイさんの最初の発言。生理用品についてにやにやしているセクションの次の文に注目です。

bbc-world-msd-bag02

“And we feel like it’s one step closer” で字幕が切れていますね。ここで、「次は to が来るな」ということを予測して聞くのです(one step closer to ~で「~に一歩近づいて」の意味)。この場合、その「次に来る to」は聞こえている必要はありません。そして実際、ほとんど聞こえません。しかも、その to のあとに来ているのが、同じ「t」の音で始まる “turning” という語なので、ますます聞こえなくなります。このように音がつながって消えてしまうのは、英語の音声の特徴です。

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そのあとの “what we could feel is a prison” の部分が “what we (could) feel (is) (a) prison” と聞こえることも要チェックです。

自分の意見を、人に伝わりやすい形でまとめる

ビデオはこのあと少し、「透明バッグ」に反対する意見(Twitterの投稿)が紹介されています。それらは「口頭での英語」ではなく「文字にして表す英語」のお手本として、自由英作文で自分の意見を述べるときのよい参考になりますから、これも見逃さないようにしてくださいね。本コラムの趣旨からは外れるので、詳しい解説はまたの機会に譲りますが、特に下記のツイートは、最初の1文で〈主張〉をはっきり言い、その後にその〈主張〉をサポートする〈理由・根拠〉を続けています。そして最後の1文は、全体を引き取ってのまとめで、ここでは〈皮肉〉を利かせた意見となっています。

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その次のセクションでは、レベッカさんが、この「透明バッグ」の何にどう怒っているのか、どのように対処しているのかが説明されます。かなり早口になっていますが、「目と耳を連動させる」ことを目的に、字幕を追ってみてください。

そしてその次が、「生徒の中には、『$1.05』という値札をこの透明バッグにつけている人たちがいる。その理由は何か」というセクションです。カイさんが説明します。”and basically that’s from the March For Our Lives” の “from” はほとんど聞き取れませんが、これも聞き手には予測可能な語です(「値札の由来」について話しているので、that’s from ~が使われることが予測されます)。

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こういう「音としては聞き取れないが、予測しているから聞くことができる」という要素は、リスニングではとても重要です。予測の範囲をある程度広げておけるように、語彙力をつけておくことが、リスニング対策として必要です。

カイさんは、「この金額は、マルコ・ルビオ議員がNRAから受け取っている金額を、(フロリダ州で)学校に通う学童・生徒の数で割った金額です」と説明しています。銃規制をしようとしない議員が、銃規制に抵抗する圧力団体から受け取っている金額は、子どもたち1人あたり$1.05(レートにもよりますが、日本円にして110円とか120円くらいですね……よく「缶ジュース1本分」でたとえられる金額です)。支給された「透明バッグ」はそんな値段で買えるものではないので、カイさんは “So, the whole stigma that’s going on is basically we’re not worth as much as this bag” と説明し(この部分、どこがはっきり読まれてどこがほとんど聞こえないかを、既に見てきた部分と同じように確認してみてください)、すぐに続けて “and that’s why this is upsetting us.” と結んでいます。「ひどいことに、生徒たちはこのバッグほどの価値もないって言われてるようなことで、だから生徒たちの怒りを引き起こしているんです」というのが説明の内容です。

そのあとは、カイさんは考えながら(あるいは慎重に言葉を選びながら)、”you know” を何度もはさみつつ、ゆっくり言葉をつなげています。その部分は、「耳と目の連動」を意識しながら、音声と字幕を追っていくようにしてください。(「既に問題があるところに、ますます問題を増やすな」っていう意見は、ほんと「まさにおっしゃるとおり!」とひざを打ちたくなりますね。)

まとめ

今回までの5回のコラム、いかがでしたでしょうか。そろそろ「耳が慣れた」状態になってきたという方もいらっしゃると思います。

5回の連載で見てきたように、ウェブ上には英語のリスニングの練習のために使える素材がたくさんあります。教材用ビデオではなく、英語話者を対象に情報を伝達することが目的のビデオなので、英語のスピードは「速い」と感じられるでしょうが、「聞いてわかる」能力を身につけるためには活用のしがいがある素材が多くあります。

まずは英語の〈速さ〉、〈ペース〉、〈リズム〉といったものに慣れましょう。これは「理解する」とかそういう問題ではなく、「慣れる」かどうかの問題です。

そして、音声として耳から入ってくるものを、文字として目からインプットしたり手でアウトプットしたりするものに変換できるよう、耳と目を連動させる練習を重ねましょう。

その際、英語の特徴である音の変化(”good dog” に見られる〈脱落〉や、”do you” に見られる〈同化〉、”take it” に見られる〈連結〉)や、文の中でも弱く発話されるところ(”We’re talking about the dinner with Harry and Megan.” は、下線部以外は弱くなります)に注目してみましょう。

また、同じ素材を何度も繰り返して聞いてみて、自分が特に聞き取りづらい単語や聞き間違えやすい単語があれば、それもチェックして弱点として意識しておくようにしましょう。字幕に知らない単語が出てきたら、辞書を引いて意味を調べて、自分で使える自分の語彙にしてしまいましょう。

英語は、全部を聞き取ろうとする必要はありません。必要なところが聞き取れれば、語彙などの面で必要な能力が備わっていれば、残りは予測・推測をしたり、補ったりできます。

そしてこのように、「全部が完全に聞き取れなくても予測したり補ったりして聞いて〈意味〉を把握する」という練習をしていくことで、入試のリスニング試験には余裕を持って臨むことができます。また、こういった能力をつけておくことは、大学入試を超えた「実用英語」としても役立ちます。

使える素材を活用して、積極的に「リスニング」の練習に取り組んでいきましょう。

リスニングについては、今後も折を見て、書いていくことにします。

参考書

ただ漫然と「英語のシャワー」的に英語のラジオを聞くなどしていても、リスニングの力はなかなか伸びません。入試本番までにリスニング対策を重点的に行いたいという方には、専用の参考書をおすすめします。解説も詳しく論理的ですから、必要なポイントを押さえながら弱点を克服することができます。

下記のようなものが現在出ていますので、amazonの「なか見検索」を使ったり、書店で中を見てみたりして、自分に合った1冊を選び、しっかりやりぬくようにしてください。



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