「聞いてわかる」英語の能力を身につけるために (4) マララ・ユスフザイさんのインタビューでペースをつかもう

Photo by UK Department for International Development (CC BY 2.0), via Wikimedia Commons

「目」と「耳」の連動

リスニングの力をつけるため、「目」と「耳」を連動させ、「耳」から入ってきた英語を「目」で見る字幕で確認し、「目」で見る綴りを「耳」から入ってくる英語の音で確認する――という練習、前回に引き続き、BBC WorldのTwitterアカウントにアップされている字幕つきの映像を使って、さらにやっていきましょう。

スピードの問題

スピードの問題について、ここまであえて詳しくは触れてこなかったのですが、当コラムで練習素材にしている映像はネイティヴ・イングリッシュ・スピーカーが試聴することが前提の映像で、そこで話される英語のスピードは、一般に「ナチュラル・スピード」と呼ばれるものです。受験生にとってはかなり「速い」と感じられるのではないかと思います。特に前回のカナダのトルドー首相のインタビューは、それなりに長さもありましたし、厳しかったのではないでしょうか。

ですが、ここで投げ出してしまわないようにしてください。前回も少しだけ触れましたが、「耳と目を連動させる」練習としては、実際の試験で使うものより、少し速いもののほうが効果的なのです。別な言い方をすれば、今は「聞き取る」ことが目的というより、「英語の音とリズムに慣れる」ことが目的です。耳から入ってきた情報を処理する必要はありません(でも、それができる人はどんどんやっちゃってください)。つまり、〈意味〉を取ろうとしなくてもよいです。〈音〉と〈リズム〉と〈綴り〉に集中してください。自分の中で「文字で書かれてればわかるけど、音声だとわからない」というギャップを埋めていくことが目的です。

一般的に、大学入試で行われるリスニングの試験でのスピードは、大学にもよるかもしれませんが、これらの素材よりは遅いです。例えばセンター試験は、過去問の音声で確認する限り、これらより1割から2割くらい遅く感じます。設問によってはもっと遅いもの(ナチュラルさが感じられない、「棒読み」のもの)もあります。ですので、今やっているように高速の素材で耳を慣らしておくと、試験問題が「速すぎてついていけない」ということがなくなります。そのためのナチュラル・スピードの音声素材です。今使っているものが聞き取れなくても大丈夫ですから、安心して、「耳と目の連動」の練習をしていきましょう。

リスニング試験は集中力が勝負のカギ

ちなみにセンター試験のリスニングは、問題の内容より何より、集中力が持続するかどうかが大きな関門です。朝から晩まで複数の科目の受験をする中で、30分ぶっ続けで英語の音声を聞いて設問に取り組むのは、なかなか大変なことです。

試験時間の間、ずっと最大限に集中しておくということは実際問題として無理なので、英語に耳を傾けながら、集中の緩急をつける感覚も身につけていくよう、意識しておきましょう。問題の途中で数秒単位で集中力を少しゆるめるだけで、30分の集中持続も楽になります。センター試験では、設問番号や設問指示の読み上げの時間がその「少しゆるめる」時間として使えますが、「目と耳の連動」のトレーニング中の今は、英語の音声そのものの中で、集中して聞いておくべき箇所(〈話者の伝えたいメッセージ〉の部分)と、少しゆるめても大丈夫かなという箇所(付加的な情報)を把握することを目標にしましょう。

マララ・ユスフザイさんのインタビュー


マララ・ユスフザイさんについては説明不要かもしれませんね。女性についての保守的な考え方がまだまだ幅をきかせているパキスタンで生まれ育ち、2012年、中学校からの帰りのスクールバス内で、「女が学校に行き教育を受けるなどということがあってはならない」と主張する勢力に頭部を銃撃され、瀕死の重傷を負った女性です。受傷後、治療を受けるためイギリスに渡り、見事な回復を遂げて高校に進み、優秀な成績をおさめ、2017年9月からは名門オックスフォード大学で学んでいます。基金を設立して女子の教育を促進する活動に取り組み、2014年にはノーベル平和賞を受賞して史上最年少の同賞受賞者になりました。彼女の歩んできた道については、書籍などでもおおいに紹介されていますし、高校の教科書でも取り上げられていますね。

そのマララさんが、銃撃事件後初めて祖国パキスタンの地を踏んだのが、2018年3月のこと。そのときにパキスタンで行われたBBC記者によるインタビューの映像クリップが、@BBCWorldのアカウントで字幕つきでアップされています。さっそく聞いてみましょう。

いかがでしたでしょうか? マララさんの英語は少しアクセント(訛り)がありますが、スピードは「ナチュラル・スピード」です。今は「耳と目を連動させる」ことが主眼で、内容にはあまり気を回さなくてよいのですが、マララさんが述べる「自分の考え」は非常にはっきりしているので、内容を把握しようと意気込まなくても自然と頭に入ってきたかもしれませんね。

出だしの “So I usually don’t get emotional” の “So” は、字幕には表示されていますが、ほとんど聞こえません(音声が入っていないといってもよいくらい)。主語の “I” はごく軽く発音されていて、”もにゃもにゃ usually don’t get emotional” としか聞き取れなかったのではないかと思いますが、それでOKです。

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その次の “but” の次の文、”yesterday when I gave my first talk after my visit Pakistan, I could not stop my tears” は、少しゆっくり目に一語一語をはっきりと発話していますね。これが話者の〈言いたいこと〉、〈しっかりと説明し、伝えたいメッセージ〉です。普段は感情に駆られないマララさんが、「パキスタンに来てから初めてトーク(講演)を行ったとき、ただもう、涙をおさえることができませんでした」と伝えています。

音声だけでなく内容にまで気が回る余裕がある人は、この第1文に2度出てくる not の聞こえ方に注目し、音声と内容を関連づけるということを試みてみてください。”I usually don’t get emotional” の don’t と、”I just could not stop my tears” の not です。後者は特に、かなり強く聞こえますね。〈否定〉は〈メッセージ〉の中でもひときわ重要なので、強く発話されますが、couldn’t という短縮形でなく could not の形を使っているときはなおさらです。

そのあとは、マララさんの音声を聞きながら、英語の字幕で単語をひとつひとつ追っていってみましょう。少しアクセント(訛り)があるので、単語と単語のつながりが「英語をぺらぺらしゃべっている」というイメージほど滑らかではなく、例えば「th」の音が標準的な英語とはかなり違って聞こえますが、一定のペースに乗って、「次から次へと言葉を出す」という英語の特質をつかみやすい音声です。

音の「同化」

30秒のところで、BBC記者のSecunder Kermaniさん(男性)の質問が入ります。彼の英語はイギリスの標準的な英語(「BBCイングリッシュ」)で、単語と単語のつながりがより滑らかです。最初に「パキスタンではあなたのことを憎悪している人もいます。例えばTwitterを見るとひどいことになっていますね」といったことを述べたあと、 “How does it feel when you read those kind of comments?” と質問しています。

この質問の部分で、単語と単語のつながり方に注目しましょう。”How does it feel” の部分は、”How” と “feel” は明瞭に聞こえるにせよ、”does it” は、音声としてはほとんど個別の単語には聞こえませんね。

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このような現象を「同化 (Assimilation)」と呼びます。Did you do that? の出だしが(あえて日本語のかな文字を使えば)「でぃじゅー」に聞こえるのが代表的な例です。これが聞き取れないと、英語を「聞いて理解する」ことはおぼつかなくなります。

Secunder Kermaniさんの “How does it feel” の部分が聞き取れない人は、何度もその部分を聞き返して、音を音として把握してしまいましょう。

集中力を少しゆるめてもよいポイント

また、彼の質問では、「Twitterのあなたのタイムラインを見ると……」と言っている箇所は、自分の〈主張〉(言いたいこと。この場合は「質問」ですが)をサポートする具体例の部分なので、Twitterという固有名詞を除いては、ごく軽く、しかも早口でさくっと流すように発話されています。ここは仮に聞き取れていなくても、メインの質問(「敵意のあるコメントを読むとどういう気がしますか?」)とそれに対するマララさんの回答(「そもそも読んでないんですよね」)という受け答えを把握する上では問題はありません。

リスニングの試験対策として音声を聞いていて、このように、ごく軽く、早口で流している箇所に遭遇したら、集中力を少しだけゆるめてもよいです。といってもゆるめっぱなしにしてはいけません。ひと呼吸する間くらい、時間にして1秒か2秒くらいです。

わずか1秒でも、集中力を少し休ませることは、長時間ずっと集中していられるかどうかということに関わってきます。この感覚を、各自で体感して会得していってください。

似た音の単語

そのあとは、音声を聞きながら字幕を確認し、このペースに乗って「目と耳を連動させる」練習をしていってください。映像が少し長めで、聞くところがたくさんありますが、量をこなすことでどんどん慣れていきます。集中が切れそうになったら、休憩を挟んでもよいです。

1分10秒ほどのところで、マララさんが “I did not fear anything” という場面があります。字幕は下記のように表示されています(スピードが少し速いので、見落とさないようにしてください)。

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この fear という単語が、発音がよく似た feel に聞こえてしまうかもしれません。その場合、その箇所を何度か聞き返し(マララさんの fear の発音はきれいです)、先ほど見たSecunder Kermani記者の質問の中にあった feel と比べてみてください。fear という単語の最後は、口の中で舌がどこにもついていない状態で終わりますが、feel は舌の先が上あご、前歯の裏に接触した状態で終わります。その音の違いがあります。

このようなポイントに注目しながら、2度、3度と映像を見返してみてください。マララさんの発言内容や、論理的な語り方にも学ぶところが大きいと思いますが、内容にまで目が向かなくても、多少のアクセント(訛り)があるとはいえ、英語の「次から次へと言葉を出す」というペースに乗って、リズミカルに言葉を繰り出す彼女のインタビューの音声そのものから、外国語として英語を学ぶ私たちは、非常に多くを学ぶことができます。それは「リスニング対策の勉強」からは少し外れて、「スピーキング」の分野になりますけどね。

でも「読む」「書く」「聞く」「話す」のいわゆる「4技能」は、それぞれ別個の能力ではなく、相互に連関しています。「聞く」練習をしていて「話す」ためのヒントを得るということは、いくらでもあってよいことです。

まとめ

英語は、個々の音をいかにきれいに発音するかということも重要ですが、それ以上に、ペースを保って勢いよく言葉を出すことが重要視される言語です。

その言語を「聞いてわかる」ようにするためには、その「ペース」や「勢い」というものについていけるようにすることが必要です。同時に、個々の音や、単語と単語のつながり(「同化」や「連結」、「音の脱落」など)も聞き取れるようにしなければなりません。

字幕つきのナチュラル・スピードの素材を使って「目と耳を連動させる」という練習を重ねていくうちに、自分の苦手な部分がそれぞれ見えてくると思います。その苦手な部分を強化するつもりになって、同じ素材を、何度も何度も繰り返して聞いてみましょう。英作文の土台にする例文と違って暗記する必要はありませんが、暗記するほど聞いてしまっても問題ないです。

次回は、アメリカ英語の素材を使って、同じように耳を慣らす練習をしてみましょう。(9月掲載予定)

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