前回の当コラムでは、複数形について、基本の基本をおさらいしました。英語では基本的に名詞は常に1つ(単数)か2つ以上(複数)かを考えることになっていて、2つ以上のときは「複数形」にするんでしたね。そして、「複数形」にするための-sのつけ方も、確認しました。
その基本が完全に頭に入っていることが、今回のコラムの前提です。「実はイマイチあやふやで……」という方は、ここで前回のコラムをもう一度読み直しましょう。
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a catか、catsか……不定冠詞のa
さて、前回、こんな会話例を考えてみました。
Rina: I have cats.(「うち、猫いるんだ」)
Miki: Cool, how many? (「いいね。何匹いるの?」)
もしRinaさんが飼っている猫が1匹だったら、会話は次のようになります。
Rina: I have a cat. (「うち、猫いるんだ」)
Miki: Cool. What’s it called? (「いいね。何て名前?」)
お気づきでしょうか。飼っている猫が複数のときは、ただ “cats” と言っていますが、1匹、つまり単数のときは、”a cat” と、aをつけています。このaは「不定冠詞」といい(定まらない冠詞、という意味です)、a catは「(話の中でまだどれと特定されていない)1匹の猫」、「(漠然と)とある猫」の意味を表します。
冠詞について、「~の意味を表します」と言われても、日本語ではそういう語がないのでなかなかぴんと来ないかもしれません。「そんなもん、なくってもいいじゃん」とか「無駄にややこしくなるだけ」と思う人もいるでしょう。でも、ここはひとつ、英語はこういうものなんだということを飲み込んでしまってください。
英語の大原則=〈a + 単数形〉か〈複数形〉のどちらか
英語では、〈a + 単数形〉か、〈複数形〉のどちらかを使う、というのが大原則です。何もつけない〈単数形〉や〈a + 複数形〉の形は使わない、と思っておいてください。
つまり、「私は猫を飼っている」という日本語をどう英訳できるか、次のように整理できます。
○ I have a cat.
○ I have cats.
× I have cat.
× I have a cats.
ここまで読んできて、「簡単すぎてばかばかしい」と思われたかもしれません。実際、今お話ししているのは基本中の基本ですから、本当にわかっている人にとっては読むだけ時間の無駄でしょう。本当にわかっている人は読み飛ばしてくれて構いません。
でも、わかってるつもりだという人は、ちょっとだけ時間をとって、最後まで読んでみてください。(「わかってるつもり」かどうかは、ここで書いてきたようなことを何も見ないでお友達に説明できるかどうかで自己判断できます。「言われたらわかるけど、自分では説明できそうにない」という場合は、「わかってるつもり」の可能性が極めて高いです。)
基本中の基本だけど、本当にわかってはいない人が多い項目
実際、大学受験生の答案の添削をしていると、”I have cat.” 式の文法ミスに遭遇することは、とても多いのです。いや、日本語母語話者の場合、社会人の英語でも頻出のミスです。著名人のSNSのプロフィール欄などでも、”I am singer” 式の冠詞ヌケのミスは非常に多いです。
不定冠詞のaは、中学1年で必ず習う基本なのですが、あまりに基本すぎる文法事項は、最初に出てきたときに何となくそのまま覚えはするものの、その後は特に解説されないままで来てしまうので、高校に入ってから(あるいは大学受験対策の勉強をするようになってから)「実はわかっていなかった」ということが発覚することが多いのです。
「わかってるつもりになってただけだった」、「わかっていなかった」ということが発覚したなら、それはラッキーなことです。その時点でちょっとだけ深く理解すれば完全に自分のものになるのですから。「わかってるつもり」のまま、曖昧な理解で済ませてしまうと得点源にはなりえませんが、「わかっていなかった」ことがわかったときにしっかり自分のものにしてしまえば得点力に直接つながります。がんばっていきましょう。
〈a + 単数形〉か〈複数形〉のどちらかになる可算名詞(数えられる名詞)
さて、閑話休題。英語では「猫」は単にcatとして文中で使われることはなく、a catかcatsかになる、ということをお話ししていましたね。
「猫」のように形があって数が数えられるものは、すべてそうです。
みなさんの身の回りを見回してみてください。スマホ、パソコン、鉛筆、ノート、消しゴム、参考書、教科書、机、椅子……それらはみな、形があって数が数えられますね。そういうものはすべて、〈a + 単数形〉か〈複数形〉の形で使い、何もつけない〈単数形〉や〈a + 複数形〉の形は使いません。今、自分がスマホを手に持っていれば、I have a smartphone in my hand. です。「この店ではスマホを販売している」という場合は、店で売られているスマホは1台ということはありえないので複数形を使い、They sell smartphones at this store. となります。
このように、実際に使われるときは〈a + 単数形〉か〈複数形〉のどちらかで、何もつけない〈単数形〉では用いられない名詞を、「可算名詞」と言います(「可算」は「数えることが可能な」の意味。「加算」じゃないですよ)。私たちが日常見たり買ったり触ったり食べたりなでなでしたりもふもふしたりするものの多くが、形があって数えられる可算名詞です。
形のないものは数えられない
一方で、それ自体では形のないものも身の回りにはたくさんあります。空気や水がそうですね。ボディソープなんかもそうです。何か容器に入れておかないと困ります。
それら形がないものは、「数」(1個、2個、3個……)を数えることはできません。それが「不可算名詞」です(「不可算」は「数えることが不可能な」の意味)。
「空気を数える」などということはありえませんね。日常生活の中で「空気を読め」と言われることはあるかもしれませんが(空気は読むものじゃなくて、吸うものですけどね!)、「空気を数えろ」と言われることはありません。
水も同様です。「水を数える」ことはありえません。
「いや、水は計るじゃないか」と思われたかもしれません。その通り、水は「リットル」や「ミリリットル」などの単位で量を測ります。あるいはもっとざっくりと、「風呂桶1杯分」とか「コップに半分」のような計り方もありますね。
しかし量を測ることは、数を数えることとは異なります。それが英語という言語の基本に組み込まれている重要な概念です。
不可算名詞は、量を測ることはできても、数を数えることはできないという名詞です。主なものとして、「空気」と「水」のほか、「液体」全般(ゲル状のものを含む)があります。
冷蔵庫の中の不可算名詞たち
具体的にイメージするために、冷蔵庫の中を考えましょう。キャベツやきゅうり、卵などは形があって1つずつ数えられます(可算名詞)。一方、牛乳やジュースは容器に入っていないと数えられません。マヨネーズやヨーグルト、ジャム、それから練りわさびやゆず胡椒なんかもそうですね。冷蔵庫には入ってないかもしれないけど、油、ソースなどもそうです(不可算名詞)。
ではチーズはどうでしょう。日常生活で、個包装されたものを1個、2個……と数えているので、可算名詞のように思うかもしれません。でも数えているのはチーズそのものの形ではなく、チーズをそれぞれの用途に合わせて成型して包装したものです。つまり「ヨーグルト1パック」や「ジャム1びん」を数えるのと同じです。したがってチーズは不可算名詞です。
納得いただけましたでしょうか。
それだけで終わらないのが英語です(ニヤリ)。
「種類」を言うとき、不可算名詞も複数形になる
チーズって、いろんな種類がありますよね。いや、「スライスチーズ」とか「6Pチーズ」とかいった形状のことではなく、チーズ自体の種類……日本では「プロセスチーズ」(加熱処理したもの)が一般的ですが、外国のチーズには「カマンベール」とか「モッツァレラ」とか「チェダー」とか「パルメザン」とか、いろんな種類があります。それぞれ製法が違い、味も違います。
そのような世界各地のさまざまな特徴を有するたくさんの種類のチーズを扱っているお店のことは、They sell various cheeses at this store. などと言います。
「……あれ、cheeseは不可算名詞だって言ったばかりなのに、なぜcheesesという複数の-sがついた形になってるんだ?」と、誰もが疑問に思うでしょう。「間違いなんじゃないか」と思う人もいるかもしれません。でも、こう言うのです。
なぜかというと、〈種類〉を言っているからです。
……わけがわからない? 私も最初にそのことを聞いたときは「ややこしい!」と思い、「そんな変なルールは撤廃すべき!」と泣きたくなりました。
でもそんなことを言ってても英語が変わってくれるわけではありません。英語を使う以上、覚えなければどうしようもないことです。
チーズのように、基本的には不可算名詞でも、特徴や製法、産地などによって「カマンベール・チーズ」や「モッツァレラ・チーズ」、「チェダー・チーズ」、「パルメザン・チーズ」などなど、たくさんの種類に分かれているものについては、その〈種類〉を言うときは複数扱いする(複数の-sをつける)というのが、英語のルールです。
これは学校で教えられる英文法からはこぼれ落ちているかもしれませんが、教科書の中にはさらっと出てきたりしているかもしれません(その場合は「熟語扱い」で、欄外に語義の解説があるかもしれません)。
実際の「生きた英語」の例を見ておきましょう。英語版のウィキペディアのCheeseの項から、抜粋します。
例文1:
Some cheeses have molds on the rind, the outer layer, or throughout. Most cheeses melt at cooking temperature.例文2:
Cheese is an ancient food whose origins predate recorded history.
例文1は「複数の種類のチーズ」を言っているので複数の-sがついて複数形になっています。つまり可算名詞での用法です。
例文2は、可算名詞なら〈a +単数形〉か〈複数形〉のいずれかで用いられるという原則から離れ、冠詞を置かずにCheese is… と書かれています。つまり、可算名詞ではない用法(不可算名詞)です。
ここで「この店ではチーズを売っている」という英文を考えてみましょう。
例文1のパターンで、「いろんな種類のチーズを売っている」と言うときは、次のようになります。専門店や、こだわりの食材を集めたお店がこんな感じですね。
They sell various cheeses at this store.
一方、例文2のパターンで、「(どんな種類のものかは度外視して)チーズという食品を売っている」のならば、下記のようになります。自然な日本語にすれば「チーズならこの店で売ってるよ」というところでしょうか。一般的なスーパーや、コンビニがこういう店です(売り場に行ってみたら、they sell various cheesesなお店だった、ということもありうるかもしれませんが)。
They sell cheese at this store.
どうでしょう。少し難しかったでしょうか。
Cheeseのように「可算名詞・不可算名詞のどちらとしても用いられうる」という語は、それほど多くあるわけではありませんから、「難しい!」と思っても、あまり深刻にならなくて大丈夫です。「へー、そういうこともあるんだー」程度に聞いていてくれればOKです。
チーズを例に説明してきましたが、これを把握するには、やはり食べ物がイメージしやすいでしょう(文法解説書などでも食べ物で説明されています)。例えばタマネギは、スーパーや八百屋で買ってくるときは形ある可算名詞です(an onion, two onions, some onions)。しかし「トマトとレタスのサラダに、タマネギを加える」というような場合、そのタマネギは1個丸ごとのをごろごろ入れるわけではありませんね。スライスしたりみじん切りにしたりしたものを入れます。そうなっているときは不可算名詞です(onion, some onionの形)。
まとめ
というところで、今回のまとめです。「まとめ」と言いながら新しい例文で考えてもらうのですが、今回お話ししてきたことを踏まえて、「わたしは猫が好きです」と「わたしはチーズが好きです」という文を英語にしてみましょう。
「わたしは猫が好きです」 I like cats.
「わたしはチーズが好きです」 I like cheese.
猫が好きな人は「猫というもの」が好きなのであり、特定しない猫1匹 (a cat) が好き、ということはありえません。そして、catという可算名詞は、〈a +単数形〉の形でなければ〈複数形〉で使うので、ここはcatsという複数形を使います。
一方「チーズ」は不可算名詞ですから、そのままの形で使います。特に種類について言いたいときは複数形にすることもありますが、「チーズというもの」が好きだという場合は特に種類を言いたいわけではないので、複数形にする必要はありません(複数形にはしません)。
この基本を、しっかり押さえておいてください。
次回は可算名詞と不可算名詞のそれぞれについて、数える/計るときのいろいろな表現を見ていきましょう。
one coffeeとかtwo cheesesと言うこともあるんですよね……でもtwo catとかthree bookとは言わないんです。
今説明しているようなことを体系立てて理解したい場合には、文法書を見てみてください。