「聞いてわかる」英語の能力を身につけるために (3) トルドー首相のインタビューで練習してみよう

Photo by justinrling@gmail.com (CC BY 2.0)

「耳」と「目」を連動させる

今回は、前回のコラムでご紹介した、BBC WorldのTwitterアカウントにアップされているニュース映像のクリップを、実際にどのようにリスニングの学習に役立てられるかということをご説明しましょう。

前回、および前々回に説明したように、英語のリスニングの力を向上させるには、最初の段階では、「文字になったもの(字幕など)を見ながら聞き取って、意味を取る」という練習が極めて効果的です。自分が見てわかる(知っている)単語が、個別の単語ではなく文章中で、音声としてどのようなものになるのかを聴覚でつかんでいくわけです。「目」と「耳」を連動させ、「目」で見たものを「耳」で確認し、「耳」から入ってくるものを「目」で確認するのです。

山下智久さんのリスニング勉強法

2018年5月、AERAdotのサイトに、「山下智久がハリウッド女優に英語でインタビューできるほど上達したワケ」という記事が出ていました。俳優・歌手の山下智久さんが、独学で、アンジェリーナ・ジョリーに英語でインタビューできるほどの英語力を身につけたことについて、ご本人に話を聞いて書かれた記事です。山下さんは10代前半から芸能界に身を置いて忙しい生活を送りながら4年間で明治大学を卒業していて、彼のこのインタビュー記事には、効率的な勉強の仕方・時間の使い方という点で、受験生はもちろん広く一般の私たちにもとても参考になることがたくさん含まれています。ご一読をおすすめします。

この記事の中で、山下さんが具体的に語っていることのひとつが、「聞き取り(リスニング)」の勉強法です。

「たとえばラップは、何を言っているのかわかりにくい。だからネットで歌詞を検索して『この単語とこの単語がつながっているから、この発音になるのか!』っていちいち確認しました。これは英語を話すうえで、ものすごくいいトレーニングになると思います。おすすめです」

ラップは正直、受験対策としては高度すぎると思うのですが、「この単語とこの単語がつながっているから、この発音になるのか!」ということを発見していくことは、とてもよい勉強法です。そして、「ラップの歌詞を見ながら曲を聞いて、発音を確認する」のと同じようなことは、前回、および前々回とご紹介したYouTubeやBBC Worldの字幕つきビデオでもやることができます。

単語と単語のつながり

英語は、通常、単語と単語をしっかり区切って発音するのではなく、単語と単語をなめらかにつなげるようにして発音します。個々人の話し方のクセや、地域差(特に、大きく分けて「イギリス英語」と「アメリカ英語」の違い)もありますが、原則として、単語と単語はつながって発音されます。

例えば、アメリカの前大統領のBarack Obamaさんの名前は、あえて日本語のかな文字で書けば「ばらこばーま」と聞こえる感じです。Barackの最後のckの音と、Obamaの最初のOの音がつながるんですね(これを専門的な言い方では「連続音」と言います。詳細はまたの機会に説明しますね)。

現大統領のDonald Trumpさんの場合は、「どなるとらんぷ」という感じです。Donaldの最後のdの音と、Trumpの最初のTの音が重なっています(これを専門的な言い方では「脱落音」と言います)。

このような感じで、いろんな単語がいろんなふうにつながります。

日本で英語学習者向けにこの「つながり」が強調されるのは、いわゆる「カタカナ英語」ではひとつひとつの単語がバラバラに認識されがちであるという前提があるためですが、最近では元の英語の音をそのまま拾ったようなカタカナ語も増えていますね。

例えば「スタンダップ・コメディ」。ステージにマイク1本立てて演者が1人で客席に向かってしゃべりまくるというスタイルの漫談ですが、これはstand-up comedyを英語の音そのままカタカナにした例です(「スタンドアップ・コメディ」という言い方もなくはないのですが、定着しているのは「スタンダップ」の表記の方です)。

“Party people” をやや揶揄気味によぶ「パリピ」というカタカナ語も、アメリカ英語での音をそのまま拾ってカタカナにしたものです(アメリカ英語の特徴のひとつなのですが、tの音がlの音に極めて近くなるため、「パーティ」が「パーリー」となります)。

今の高校生のみなさんは、学校でもネイティヴ英語話者の先生の英語に接する機会が多かったので、前の世代ほど「カタカナ英語の呪縛」みたいなものはないと思われますが、それでも「何となく聞き取れたり聞き取れなかったりする」ということがあれば、こういった「音のつながり」を認識してみることで、聞き取りのできる程度が変わってくるかもしれません。

では、ここでBBCのニュース映像を見てみることにしましょう。まずはカナダ首相のインタビューです。

カナダのトルドー首相のインタビュー

かつて、カナダという国の首相のことが日本のニュースに出てくるのは、G7主要国首脳会議(通称「G7サミット」)のときくらいでした。しかし、2015年の総選挙で自由党が勝利し、同党党首のジャスティン・トルドーが首相になったあと、それが激変しました。1971年生まれと若く、父親がカナダの首相を務めていたという背景がありながら、個人的経歴は典型的な政治家とは少し違っていて、難民受け入れや社会の中の女性や性的少数者(LGBT)の権利や地位ということに関して極めて進歩的、突然量子コンピューターの話題をふられても、すらすらと説明できるくらいに知性的で、しかもルックスがよいということで、ニュースはおろか、女性向けファッション雑誌の記事になるほどの人気ぶりです。

そのトルドー首相が、EU(欧州連合)離脱後のイギリスとカナダとの関係について語るインタビュー映像が、2018年4月にBBC WorldのTwitterにアップされています。前回のコラムで説明した通り、字幕がついていますので、目で単語を見て、耳で音声を確認する/耳で音声を聞いて、目で単語を目で確認することを意識して、再生ボタンを押してみてください。

トルドー首相の話の内容が難しいとか、知らない単語が多いと感じられるかもしれませんが、今回はそこは気にしなくてOKです。「目」と「耳」の連動の練習と思ってやってみましょう。


いかがでしたか? よほど慣れている人でなければ、文字を追うのに精一杯で内容は頭に入ってこなかったのではないかと思いますが、今回はそれでOKです。(ちなみに、トルドー首相はけっこう早口です。)

「聞き取りやすいところ」と「聞き取りづらいところ」の確認

1度目の再生で、「目で単語を見て、耳で音声を確認する」、「耳で音声を聞いて、目で単語を目で確認する」ということがやりやすい部分と、やりづらい部分があることが感じられたかと思います。その「やりづらい部分」(聞き取りづらいところ)は、そもそもはっきり発話されない部分であるか、自分にとっての苦手な部分です。

2度目は、その「やりづらい部分」を意識して、同じように再生してみましょう。

そこまでできたら、適宜同じ映像を再生しながら、この先を読み進めてみてください。

すべてを完璧に聞き取れなくてもOK

この動画で多くの人が「聞き取りづらい」と感じるのは、しょっぱなの “we’re” ではないかと思います(これはこの動画でこのあとでも出てきますから、そちらも注意してみてください)。非常に軽く発話されているので、「もにゃもにゃ言っている」ようにしか聞こえないのですが、そういう部分は、まとまった話を「聞いてわかる」ためには、聞き流してしまっても問題がないことがほとんどです。

逆に、そういったところが聞き取れないからといってつまづいてしまうのは、大きな問題です。特に完璧主義の傾向がある人は、全部を完璧に聞き取れなくてもいいんだということを、スタート地点でまず自分に言い聞かせておいてくださいね。

はっきり発話される部分は中心的なメッセージ

この冒頭の “we’re” とは対照的に、ぜひとも聞き取れていてほしいのが、その後に続く “have a seamless transition” の部分。これがこの文章の中心的メッセージで、重要な情報となる部分ですが、「シームレスに移行する」(あれこれ途切れさせずに滑らかに移行する)という意味です。

このインタビューは、ツイート本文にある通り、イギリスのEU離脱(Brexit)後のカナダとイギリスの関係についてというテーマで、「移行 transition」というのは、EU離脱前の両国関係から離脱後のそれへの移行という意味です。トルドー首相は、イギリスがEUを離脱しても両国間の貿易などは滞りなく行われるようにしていきますよ、ということを言いたいのですね。

このあとに出てくる “CETA” は、ちょっとなじみがないので難しいかもしれませんが、「カナダEU包括的経済貿易協定 (The Comprehensive Economic and Trade Agreement)」のことです。カナダはEUとの間でCETAという協定を結んだばかりだが、Brexit後のイギリスとはこのCETAとは別の協定が必要になってくる、ということが説明されています。

このインタビューで一番「教材」になるところ

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このあと、20秒ほどからの “So we’re very happy with trade with Britain, it’s our largest trading partner in the European Union” のところは、すべて聞き取れてほしいところです(ただし、字幕に書き起こされていない言葉もあります)。ここにまた、冒頭に出てきた「はっきりしない “we’re”」が出てきていますね。そのあとは、字幕には書き起こされていない “you know” を挟んで、”very happy with (ここにehか何か書き起こされていない語があって) trade with Britain” と滑らかに進み、さらに次の文が続いています。

リスニングの練習としては、 “trade with Britain” のつながりや、”our largest trading partner” のlargestの最後のtと、tradingの最初のtの重なり(「脱落音」)、”the European Union” の、非常に軽くしか発音されないtheに注目しましょう。

その後の、”predictability and continuity” は、極めて素直に、というか明瞭に発音されています。「予見可能性と継続性」は、アメリカがトランプ政権になったあとアメリカの外交政策からは失われ、アメリカ以外の各国ではキーワードとなっています。特にカナダはそれを重視しているという姿勢が示されています。

はっきり聞こえるところと、「もにゃもにゃ」としか聞こえないところ

30秒ほどでインタビュアー(女性)の言葉が入りますが、彼女の英語はいわゆる「イギリス英語」、「BBC英語」と呼ばれるものです(「クイーンズ・イングリッシュ」とは異なります……女王の英語は独特の響きのある英語です)。

そのあとも、「目」と「耳」を連動させながら見ていってください。どこがはっきり聞こえるか、どこがもにゃもにゃとしか聞こえないかがわかると思います。

「もにゃもにゃ」の方は、話者の話し方のクセや地域ごとのアクセント(訛り)の影響もありますし、気にし始めたらきりがなくなるので、あまり気にしなくてよいです。それより、はっきり聞こえるところに注目しましょう。

例えば38秒あたりでの “I think six months ago when I was last here” は、 “six months ago” が非常にはっきりしていて、 “when I was last here” は「もにゃもにゃ」しています。これは、「6ヶ月前」が〈主要な情報〉で、「前回私がここに来たとき」は〈付加的な情報、言い足し〉だからです。

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この点は、日本語でも英語でも同じだと思いますが、人は音声でコミュニケーションをとるとき、相手にはっきりと伝えたい情報(主要な情報)ははっきりと言います。「英語の試験は15日に行います」という単純な文も、はっきり伝えたいのが「英語の」の部分のときは「英語の」が強調されるし、「15日の」ならば「15日の」がはっきり強く発話されます。そういう強弱みたいなものが、この “I think six months ago (強) / when I was last here (弱)” の箇所では明確に出ています。

そして、はっきり聞き取れないところは、多くの場合、聞き流してしまって大丈夫です。この場合はトルドー首相が「6ヶ月前にイギリスのメイ首相と話をした」ということが重要で、「そのときにトルドー首相はここ(イギリス)に来ていた」ということは付加的な情報なのです。

英語のリズムをつかむ

このあたりまで聞いてくると、かなりスピードに慣れてきたのではないかと思います。同時に集中力も切れてくるかもしれませんが、トルドー首相の話すスピードについていくつもりで、ひたすら字幕で単語を確認してください。officials, working, smooth, possibly, confidentなど知っている単語がどう発音されているか、それがひとつの文章の中でどう聞こえるかを確認するつもりで聞いていくうちに、波に乗るように英語のリズムに乗れていくはずです。

英語はリズムの言語です。「たーんたた、たーんたた、たたんたー」といったようなリズムがあります。その中で、asやit, we’reのような語は軽く発話されるだけで、smooth, confidentのような語が強く読まれています。ざっくりとしたイメージでは、日本語の文法でいう「自立語」に相当する単語は強く読まれると認識してもよいですが、必ずそうなるというわけではなく、文の内容や話者の意図によって決まる部分も多くあります。

そのリズムをつかめるようにすることが、試験での「リスニング」対策として重要なことです。

言いたいことがはっきり発話されている

インタビュー映像の45秒からあとは、次の質問に移っています。

インタビュアーのヤルダ・ハキムさん(BBCのニュースキャスター)が「先ほど『円滑な』とおっしゃいましたが、それはEUとの間で結ばれたものより迅速でよりよいものだということでしょうか。EUとの間の合意は物議をかもし、8年近くもかかりましたし、一度は合意が断念されそうになりましたね」(つまりCETAは大変な過程を経て合意されたが、カナダとイギリスの間の二国間合意はもっとよいものになり、合意形成もそんなに時間がかからないということか、ということ)と質問すると、トルドー首相は考えて言葉を選びつつ、その質問に含まれていた「8年」という言葉を用いて、自分の考えを示しています。

この部分は、それまでの「立て板に水」のようなペースが崩れていますが、その分、聞き取り練習はやりやすくなっています。耳ではっきり聞き取れないような言いよどんでいるところは気にせず、聞き取れる単語を字幕で追ってください。

そのあと、1分05秒あたりで立て直してきたトルドー首相のペースは元の「立て板に水」に戻ってきます。”and then, (you know,) the day after Brexit and in the following months we’ll work on making sure we’re taking full advantage of the particular bilateral relationship between the UK and Canada…” という息が長い文も一息です。

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ここは、一言一言がかなりはっきりと発話されています。言っていることが全然具体的ではないので、内容の把握はなかなか難しいのですが、発話の形式から、このインタビューでしっかり伝えたい重要なメッセージなのだということがわかると思います。(ちなみに内容は「イギリスとカナダの間の二国間関係を最大限に活かし、EU離脱後のイギリスとカナダとの関係を構築していきたい」ということです。)

インタビューの最後の “all that long” は、先行の「8年間」のことです。インタビュアーが「EUとの合意には8年もかかりましたね」と言ったので、「今回イギリスとの合意には8年間もかかりませんよ(にっこり)」と応じているわけです。

まとめ

以上でこのインタビューのクリップは終わりです。1分25秒とさして長いものではないのですが、集中して聞くのはかなり大変だったのではないかと思います。

内容としても、英語の速度面でも、センター試験の英語のリスニングなどと比べたらかなり難易度が高かったのですが、今回当コラムでやってきたことについてくることができた方は、難易度が高めの素材で練習をしていくことで力がつき、センターの過去問をやったときに「あれっ、センターのリスニングってこんなに簡単だったっけ?」と思えるようになっていくのではないかと思います。

一方、今回の当コラムが難しすぎてついてこれなかった方は、練習素材(このインタビュー)のレベルが合っていない可能性が高いので、もう少し易しい素材で練習を積むのがよいでしょう。前回のコラムでご紹介したハリー王子とメーガン・マークルさんのインタビューのメーガンさんのパートは、今回のトルドー首相のインタビューより練習素材として易しいので、そちらを使って、「目」と「耳」を連動させ、英語のリズムを体感する練習をしてみてください。

次回はさらに、別のインタビュー素材を見ていきましょう。

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「聞いてわかる」英語の能力を身につけるために (1) YouTubeの字幕を使おう
「聞いてわかる」英語の能力を身につけるために (2) BBC WorldのTwitterアカウントを活用しよう

 

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