【現代史】「代理戦争」の時代

Photo by U.S. Marines (Official Marine Corps Photo # 371490)(http://www.tecom.usmc.mil/HD/Home_Page.htm). via Wikimedia, CC BY-SA 4.0

前回、アメリカの宇宙開発計画の現場にいた黒人女性数学者・技術者たちを描いた映画『ドリーム』を通じて、米ソの「冷戦」の時代の一側面を見てみました。

今回はその「冷戦」の時代に、別の側面から光を当ててみましょう。

「冷戦」とは

以前詳しく説明していますが、「冷戦」とは何かについて、改めて振り返っておきましょう。

第2次世界大戦が終結すると、大戦では同じ「連合国」の陣営で枢軸国(ドイツ、イタリア、日本)に対して戦っていたアメリカとソヴィエト連邦(ソ連)が対立するようになります。

「資本主義」対「社会主義・共産主義」の対立の構図は全世界に及び、世界のほとんどの国々が「資本主義陣営」か「社会主義陣営」かのどちらかに組み込まれていきました。

冷戦下の分断国家

第2次世界大戦後にアメリカの単独占領下に置かれた日本は、前者に組み込まれます。

同じく大戦後に米英仏ソの4カ国の占領統治を受けたドイツは「西ドイツ」と「東ドイツ」に分断され、前者は「資本主義陣営」に、後者は「社会主義陣営」に組み込まれます。

歴史を語るときに「もし……」は禁句なのですが、もし日本がアメリカの単独占領ではなくソ連との2カ国の占領統治を受けていたら、日本もおそらく、ドイツのように分断されていたでしょう。

朝鮮戦争

ドイツと同様に両陣営で分断されたのが、日本の植民地支配から脱した朝鮮半島です。1945年8月15日をもって北緯38度線の南側がアメリカに、北側がソ連によって占領された朝鮮半島は、1948年に大韓民国(韓国)と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に分断されます。1950年6月には北朝鮮軍の南下によって朝鮮戦争が勃発。この戦争は1953年7月に休戦しましたが、2018年9月になってもまだ最終的な「終戦」は実現していません(2018年の国際ニュースでは、この終戦が年内に実現するかどうかが大きな関心事のひとつとなっています)。

この朝鮮戦争において、直接戦火を交えたのは、北朝鮮軍と韓国軍、およびそれぞれを支援する外国の軍隊でした。

北朝鮮側はソ連と中国が支援しました(ソ連は武器調達や兵士の訓練による支援、中国は兵士を義勇軍として送り込むという形での支援)。韓国側には、北朝鮮軍の侵略を受けた時点で進駐していたアメリカ軍と、イギリスなどが参加していた国連派遣軍が加わりました。

そのため、朝鮮半島で戦死した米軍人も多くいました。2018年7月に行われた北朝鮮からアメリカへの遺骨の返還は、このときの戦没者の遺骨の返還です。

「代理戦争」とは

この朝鮮戦争は、「代理戦争」と位置づけられています。

「代理戦争」とは、アメリカとソ連が直接対決するのではなく、双方がどこか外国を支援して行った戦争のことです。支援された外国は、アメリカもしくはソ連の「代理」となる、ということで「代理戦争」と呼ばれるのです。英語ではproxy warと言います。

代理戦争の時代

「冷戦」の時代は「代理戦争」の時代でもありました。上で説明した朝鮮戦争のほか、1979年~89年のアフガニスタン侵攻(社会主義政権が成立していたアフガニスタン国内の反政府勢力をアメリカが支援し、ソ連が政府軍支援のため直接軍事介入)、1975年から2002年まで続いたアンゴラ内戦(対立する両陣営を米ソがそれぞれ支援)などが、代理戦争の典型例とされています。

中でも際立った例が、ベトナム戦争です。

ベトナム戦争

Photo by U.S. Marines (Official Marine Corps Photo # 371490)(http://www.tecom.usmc.mil/HD/Home_Page.htm). via Wikimedia, CC BY-SA 4.0

Photo by U.S. Marines (Official Marine Corps Photo # 371490)(http://www.tecom.usmc.mil/HD/Home_Page.htm). via Wikimedia, CC BY-SA 4.0


ベトナムはフランスの植民地でした。第2次世界大戦終結後の1945年9月、ベトナムは共産主義国家建設を目指すホーチミンらの勢力が革命を成功させ、独立を宣言しました。が、共産主義への警戒を強めるアメリカなどはこれを聞こうとしませんでした。翌1946年11月には、ベトナムの独立勢力軍とフランスとの間で全面交戦となります。これが「第一次インドシナ戦争」です(1946年~54年)。最終的にフランスが敗れて撤退するのですが、この戦争には既に米ソと中国が介入していました。ベトナムは共産主義者による「北ベトナム」と、反共産主義を掲げる「南ベトナム」に分断されたのです。

その状況下で、ラオス、タイなど周辺国も巻き込みながら、非常に複雑な経緯を経て起きたのがベトナム戦争です。

この戦争は開戦の宣言がなされておらず、いつ開始されたかは何通りかの説をとることができるのですが、深刻化したのは、アメリカがジョン・F・ケネディ大統領(任: 1961年~63年)のときです。そのケネディ政権でさえ、アメリカが支援する南ベトナムに軍事顧問団を派遣するという形で関わっていたのですが、ケネディ暗殺後のジョンソン政権で介入の度合いは深まり、アメリカが本格的に軍事介入するようになります。

その後のことは、数々の書籍や映画でも説明されている通り。米軍はベトナムの地に爆弾の雨をふらせ、ゲリラ兵士のひそむジャングルを一掃すべく強力な除草剤(枯葉剤)をまくなどし(その薬品のせいで身体障碍を持って生まれてくる子どもたちがたいへんに多くいました)、北ベトナムの側も一般の住民(非戦闘員)に対し非常な暴力を行使。多大な犠牲を生じさせた挙句に、1975年4月、南ベトナムの首都サイゴンが陥落して北の支配下に入り、戦争は終結します(サイゴンはその後「ホーチミン」と改名されました)。ちなみに、2018年8月に亡くなったジョン・マケイン米上院議員はパイロットとして北ベトナムに対する爆撃をおこなった際に撃ち落されて捕虜となり、5年間を戦争捕虜として過ごしています。このときに受けた拷問のために、腕が頭より上には上がらないという後遺症が残りました。北ベトナム側による尋問の際の映像があります

ベトナム戦争の経緯は、まともに説明するには本1冊では足らないくらいなのですが、下記の新書がよくまとまっています。少々高度かとは思いますが、興味がある方は読んでみてください。

ベトナム戦争は最終的にアメリカ人とアメリカ社会に「戦争とは何か」という問いをつきつけることになったのですが、映画では、オリバー・ストーン監督の『プラトーン』、スタンリー・キューブリック監督の『フルメタル・ジャケット』など、非常に凄惨な戦場描写で戦争を問う名作が、この戦争を題材として多く作られています。興味がある方はウィキペディアにあるリストを見てみてください。


戦闘シーンはどうも苦手だという方におすすめしたい「ベトナム戦争もの」の映画が、アラン・パーカー監督の『バーディ』です。(DVDもありますが、オンラインのレンタルが便利です。)

ベトナム戦争に送られた親友2人組のうち、1人は心に大きな傷を負って、帰国後は精神病院に入れられています。顔に負傷して治療を受けたもう1人は、完全に心を閉ざしてしまっている親友と再会し、戦争に行く前、平穏で楽しかった高校時代の思い出を語り続けますが、親友は応えてくれない……「鳥になりたい」と真剣に思っていた彼は、戦場のあまりにも悲惨な現実に直面し、「鳥になりたい」ということしか考えられなくなっているのです。若き日のニコラス・ケイジが、反応しない親友バーディに語りかけることで自分とも向き合っていく青年、アルを演じています(意外かもしれませんが、このニコラス・ケイジは演技がさほど大げさではない!)。対するバーディはマシュー・モディーン。繊細な青年を見事に演じきっており、画面を見ているこちらも心が痛くなってきます。つらい物語ですが、最後は救われます。

人にとって戦争とは何か、他人を殺すことになる兵士になるとはどのようなことかを、「戦争から帰ってきた青年」の心を通じて描いた作品は、マイケル・チミノ監督の『ディア・ハンター』など、他にも数多く制作されています。機会があったら見てみてください。

まとめ

日本で生まれ育った私たちの多くは、「戦争」といえば、私たちの国土を焼き、多くの人々を殺した第2次世界大戦だと思っています。

そして、第2次世界大戦という過ちを二度と繰り返しませぬからという誓いを立て、戦後制定された現行の日本国憲法が第9条で戦力放棄していることから、「戦争はもうなくなった」、「戦争は過去のものだ」と思いこんでいる傾向があります。

しかし、世界的に見れば、1945年以降も戦争は過去のものになどなっていません。

2018年9月の時点で、イエメンではサウジアラビアとイランの代理戦争が続いています(それぞれにアメリカとロシアがついているので、構図は冷戦期より複雑です)。

シリアでの戦争は独裁政権に対する民衆蜂起に端を発した「内戦」ですが、その内戦に諸外国の思惑と介入が絡んでめちゃくちゃになっています。いわゆる「イスラム国」などテロ組織の活動は、シリア内戦のごく一部であり、すべてではありません。

15年前の2003年には、国際法を無視する形でアメリカとイギリスが主導し、イラクのサダム・フセイン政権に対する攻撃が行なわれました。この「イラク戦争」によってサダム・フセインの強権政治が消え去ったことで、中東のイスラム主義勢力がイラクに足場を築くことが可能になりました。

その2年前、2001年の9月11日には、テロ組織「アルカイダ」がアメリカに対し、飛行機を武器として使うという荒唐無稽なテロ攻撃を実行しましたが、そのテロ攻撃をきっかけとしてアメリカは「テロとの戦争(対テロ戦争)」を宣言し、アルカイダが拠点としていたアフガニスタンを攻撃し、続いて「イラクのサダム・フセイン政権が9月11日のテロと関係している」と虚偽の主張を行って、イラク戦争に踏み切ったのです。

受験生のみなさんの答案を見ていると、「1945年8月15日で戦争というものはこの世から消えた」と考えていることも少なくありません。しかし、それは誤りです。日本は戦争をしなくなったかもしれません(この先はどうなるか、憲法次第でまだわかりませんが)。ですが、そのことは「世界全体が戦争をしなくなった」ことを意味しはしません。

広島と長崎に投下された原爆は、地球最後の核兵器ではありません。冷戦が終結してから四捨五入で30年にもなろうかという現在もなお、地球上の全人類を何度も皆殺しにできるくらいの量の核兵器が、アメリカとロシアを中心に、世界に存在し続けています。

現代史を考えるときに、その視座を持っておくことは、重要なことです。

 

【PR】スタディサプリでテスト対策から難関大対策まで

スクリーンショット 2017-02-11 12.38.53 スタディサプリは高校1,2年生であれば定期テスト対策や受験の基礎固めとして、受験生なら志望校対策として活用できます。スマホで学習を進めていくので、学校や予備校の勉強を平行して進めることができます。 月額980円と一般的な予備校に比べると圧倒的安価で学習が可能なうえ、2週間の無料体験期間もあるので自分自身の勉強の中にどのように組み込むことができるかまずは試してみてください。 詳しくはこちら

【PR】教材の質・難関校受験に定評ある【通信教育のZ会】

c7ev0p00000010h7 詳しくはこちら

【PR】大学・短期大学・専門学校の進学情報のスタディサプリ進学

スクリーンショット 2017-04-23 15.48.26 スタディサプリ進学は、将来なりたい自分探しをサポートし学部・学科選びと学校探しをサポートする進学情報サイトです。気になる学校のパンフレットはこちらから! 詳しくはこちら