前回、YouTubeにアップされている音楽ビデオを使って英語のリスニングの練習をする方法を、ざっとご説明しました。
YouTubeには、大きく分けて、アーティスト自身が歌詞をメインに制作した「リリック・ビデオ」、通常の音楽ビデオで字幕(クローズド・キャプション: CC)の表示機能がオンになっているもの、字幕表示がオフで外部サイトで歌詞を探す必要があるものの3種類のビデオがある、ということを述べました。
実はこのほか、YouTubeには、ビデオ画面の下に表示されているビデオの説明の欄(description欄)に歌詞が入っているものもあります。次の図のように、description欄の「もっと見る」をクリックすることで表示されます。
ここに歌詞が入ったビデオをYouTubeやGoogleの検索で探すのはとても難しく、たまたま見たビデオがここに歌詞があればラッキー、というようなものですが、何か見たビデオで歌詞が気になるもの、聞き取りの練習をやってみたいと思ったものがあれば、外部サイトで歌詞を探す前に、description欄を開いてみてください。やり方は下図の通りです。
※下記の例はエド・シーランのShape of Youという曲です。
■パソコンで見る場合
Description欄の「もっと見る」をクリックすると……
歌詞が表示されます(スクロール・ダウンしないと見えません)。
■スマホのYouTubeアプリで見る場合
曲名の右肩についている「▼」マークをタップすると、description欄が展開されます。
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Contents
英語らしい音に注意しながら、歌詞をしっかり聴いてみよう
Major Lazer featuring Justin Bieber and Mo – Cold Water
では今日の1曲目。アメリカのアーティスト、メジャー・レイザーが、カナダの男性シンガー、ジャスティン・ビーバーと、デンマークのモーという女性シンガー(2分14秒からの女性の声)をヴォーカルに迎えて制作した曲です。
この曲はもうご存知の方も多いでしょうし、何度も聞いているという方もいらっしゃるかもしれませんが、そういう方も改めて、画面に表示される歌詞を目で追いながら、次のようにして3回聞いてみてください。
1度目は、音として聞く練習です。特に画面に出てくる単語の「L」の音 (low, let, places, still, life line, lost, learn, lay, afloat, aloneなど) と「R」の音 (breath, drowning, right, different, grow, rocking, restなど) に注意しながら聞いてみましょう。ジャスティン・ビーバーの英語はかなりクリアなので、とてもよいリスニングの教材になります。
2度目は、曲の内容(歌詞の意味)をつかみながら聞いてみましょう。歌詞の意味は、読めばわかると思いますが、大雑把に説明すると、「君の気持ちがどうしようもないほど下がりきってるときは、僕がライフラインになるよ。僕が冷たい水の中にも飛び込んでいこう。だから1人で溺れてしまわないで」というものです。後半で女性の声(モーの声)が入ると、溺れている人と、助ける人の掛け合いのようになります。その情景をイメージし、バックトラックのやわらかい音に合わせて、もう一度画面に出てくる歌詞を見ながら聞いてみましょう。
3度目は、なるべく画面の文字を見ずに聞いてみましょう。音として聞こえるものが、文字として頭に浮かぶでしょうか? はっきりわからない部分は画面を見ても構いませんが、そこが自分の弱点だということはしっかり把握しておきましょう。できればメモを取って、自分が聞き取りが苦手な音・単語として意識していけるようにするとよいでしょう。
さらに余裕がある人は、4度目に、画面を見ながらでも、見ていなくても構いませんが、耳から聞こえてくるまま口で繰り返してみましょう(このようなやり方を「シャドーイング」と言います。同時通訳の資格を取ろうとする人も行う練習です)。細かいところは完璧にしようとしなくていいです。ところどころ「ふんふんふーん♪ るるる~♪」と鼻歌になってしまっても構いません。聞こえてくるままを口にしてみましょう。そのとき、1度目に意識しながら聞いていた「L」と「R」に、十分注意してください。聞き分けるのは難しいかもしれませんが、発音を区別することはかなり楽になってくるはずです。
この曲でもっと聞き取りの練習をしたいという場合は、デジタル・ダウンロード(購入)もできます。
Selena Gomez & The Scene – Naturally
アメリカのシンガー、セリーナ・ゴメスが「ザ・シーン」というバンドで活動していたときのヒット曲。YouTubeを探せばファンが作ったリリック・ビデオもありますが、ここではアーティスト自身の公式アカウントがアップしているミュージック・ビデオを使います。歌詞は前回記事で外部サイトで歌詞を探すやり方を参照して探してください。
聞きどころは、英語らしい「音の連結」です。
「連結」とは、2つ並んだ単語の前の語の最後の音と、次の単語の最初の音(特に母音)がつながることです。例えば “get out” は「ゲット・アウト」というより、”getout” 「ゲタウト(またはゲッタウト)」と聞こえますね。”I like it.” は「アイ・ライク・イット」というより “I likit.” 「アイ・ライキット」と聞こえます。前者はgetの最後にあるtと、outの最初の音がつながって「タ」のようになり、後者ではlikeの最後の音であるkと、itの最初の音がつながって「キ」のようになっているのです。その結果、どこからどこまでが1語なのかがはっきりしない感じで、たらたらたらっと聞こえます。
セレーナ・ゴメスのこの曲では、まず、0:07からの “It’s all your own and I can tell” の部分。It’s allがまるで1語のように聞こえます。続くyour ownもつながっていて、そのownの最後のnと次のandのaも完全につながっています。そのあとのI can tellは、それほどたらたらたらっとした感じではありません。そこを意識して聞いてみてください。
「連結」がはっきりわかるところはもう1ヵ所あります。サビの部分で、”You are the thunder and I am the lightning” のandが、先行するthunderの最後のrとつながっているのがよく聞こえます。サビなので何度か繰り返されていますから、一時停止する必要なくじっくり聞けると思います。
それから、先ほどのジャスティン・ビーバーの曲でも注目した「L」と「R」は、この曲でも目立ちます。まず、曲のタイトルであり、曲中で何度も繰り返されるnaturally. 「R」と「L」が両方入っていて、しかも連続していますね。これは耳に入ってきた音をそのまま口にする「シャドーイング」をするときに明確に意識してやってください。
ほか、follow, feel, try, breath, 2:07秒あたりから始まる展開部分(少し静かなトーンのところ)でのcollide, fly, lookの「L」音の連続も滑らかできれいですね。
この曲の内容は、「いつもあなたは肩に力を入れず自然にあなたらしくしていて、とてもすてき」というものです。とてもポジティヴで元気をくれる感じの曲調、気合を入れていきたいときにぴったりです。
購入はこちらからできます。
Clean Bandit – Stronger
クリーン・バンディットは、イギリスの超名門、ケンブリッジ大学で学んでいた学生たちによって結成されたバンドです。この曲で歌っているのはアレックス・ニューウェル。2009年から2015年まで続いたテレビ・シリーズ『glee/グリー』の出演者のひとりで、ソウルフルな歌声の持ち主。なお、ビデオに出てくるバス運転手のおじさんは歌い手ではありません。
この曲は、リズムに乗って、言葉が流れる感じをつかみましょう。出だしは「L」の音に注目するとよいです(”People tell” の繰り返し、lose self controlでの「L」音の連続、flawless, let, evolveといった単語)。
サビの部分(”I wanted to be stronger” で始まる部分。ビデオではみんなが踊ってます)では、単語と単語の音があまり連結せずに、それでいて滑らかにつながっています。
また、サビのところではifのない仮定法(助動詞の過去形)のよい表現が出てきますね。「もし僕が今よりもっと強くなれたなら、君は信じるだろうか、君が僕に望むように僕が君を愛することができるのだと」という意味で、could, wouldが出てきます。
サビのあとの展開部では、breath, every, tried, dryの「R」の音の連続に注目しましょう。出だしの「L」音の連続とは雰囲気が違って口ごもっている感じがしますね。歌詞の内容がそうなので、歌い手がそのように歌っているのですが、音そのものの性質も作用しています。(「R」は「L」ほど押しの強い響きがしない音です。)
もうひとつ注目すべきところは、音がほとんど消えてしまう例です。サビの “I wanted to be stronger” のwantedのdの音は消えて、直後のtoに吸収されてしまっています(これを音の「脱落」と言います)。dとtは、有声音(声帯を振動させる)か無声音(声帯を振動させない)かという違いがあるだけで、音の作り方(口の中の舌の位置など)は同じですから、このようになります。
また、サビの最後のところにある “Love you like you want me to” の “you want me to” の部分でも、wantのtがほとんど聞こえません。英語の音のこのような性質に注意してみてください。
何度も繰り返し聞きたい場合、購入はこちらからできます。
まとめ
今回は「英語らしい音」に注目するという主旨で、ジャスティン・ビーバー、セレーナ・ゴメス、クリーン・バンディットとポップな曲を3曲、聞いてみました。
解説では「L」と「R」、「連結」、「脱落」を扱いましたが、他にも「TH」など特徴的な音の聞きどころはたくさん入っていますので、みなさんそれぞれで「ここは!」と思ったところに注目して、何度か聞いてみてください。
最後に、今回のまとめとして、『アナと雪の女王』(原題はFrozen)のあの曲を聞いておきましょう。この映画は日本語吹き替え版もヒットし、この曲も日本語版が大ヒットしましたが、日本語版の歌詞の内容は原詞とはかなり違います(詳細は小野昌弘さんの解説がわかりやすいと思います)。音の「連結」がとてもよくわかるタイトルの “Let it go” は、意味としては「それを去らせる」、つまり「それをここに留まらせない」ということで、意訳すれば「やり過ごす」、「こだわらない」、「くよくよしない」ということになります。この作品はアニメ映画なので、吹き替え版では登場人物の口の動きに合わせるよう工夫して訳詞を作成したそうですが、こうなるとほぼ「作詞」ですね。(余談ながら、そのような例はカバー曲にもたくさんあります。前回見たAngie GoldのEat You Upと、それをカバーした荻野目洋子の『ダンシング・ヒーロー』がその一例です。)
……などということも踏まえながら、聞いてみましょう。これは「一緒に歌おう」という主旨のビデオなので、画面の下に歌詞が表示されます(カラオケのビデオのように)。”Let the storm rage on. The cold never bothered me anyway” のところは、letやbotherという語の意味・語感をつかむにもぴったりです。もちろん「L」の音や「R」の音はとてもはっきりしていますので要注目です。
映画を日本語吹き替え版でしか見ていない方は、字幕版もぜひ見てみてください。
さて、というわけで今回はポップスを聴いてきましたが、次回はぐっとロックに寄せていきたいと思います。