大学受験の段階で大学院進学まで既に視野に入れている人は少数かもしれません。それでも理系学部、特に理学部や工学部に進む方は漠然と大学院進学を思い描いている人もいるのではないでしょうか。
実際、理学部・工学部の大学院進学率は高く、進学か就職かの段階になったときに、周りのほとんどの人が進学するという状況になる可能性が高いでしょう。大学院進学が当たり前過ぎて、「皆が行くから自分も行く」という人が多いのも現状です。
進学する理由はともかく、理系大学院に進むとどのようなメリットがあるのでしょうか。私自身の経験を基に紹介していきたいと思います。なお、どの大学のどの研究室かによって状況は大きく変わりますので、あくまで自分の経験と周りの話をまとめてごく一般的な話になります。また、大学院には修士課程の後に博士課程がありますが、大半の人は修士課程修了後に就職するため、博士課程については考慮せずに書いていきます。
就職しやすくなる
個人的に思う大学院進学の一番のメリットは、就職に強くなるということです。研究が本来の目的なので「就職しやすくなる」というのがメリットでは本末転倒という気もしますが、先に述べた通り、皆が皆やる気満々で進学するわけではありませんので、現実的に見るとこの点が大きなメリットではないかと考えます。
自動車、電機・機械、鉄鋼、建築、エネルギー等々、専門的な知識やスキルを持つ人材を欲しがる業界はたくさんあります。そういった企業の研究・開発系の部門では修士課程を修了していて関連した研究を行っていれば内定を取れる確率は大きくなりますし、そもそも採用条件として修士課程修了を条件としているところもあります。
私は工学研究科を修了して電機メーカーに開発職として就職しましたが、技術系の同期の大半は院卒でした。面接の際も、研究内容の発表とそれに関する質疑応答が大半を占めていたので、しっかりと研究に取り組んでいれば面接対策も楽になります。
さらに、大学院だと推薦枠も多くなります。もちろん自由応募でも有利にはなりますが、学科ごとに設けられた推薦枠を取ることができれば、採用試験も容易になり、本来3~4回必要になる採用試験も1~2回の面接で終わるなどということもあります。
どこの就職先を選ぶかによって、学歴や研究内容によって大きく左右されますが、希望する業界と関連のある研究を知れていれば、一般的には就職に強くなると考えてよいでしょう。
文書作成能力が身につく
2つ目のメリットとして挙げられるのが、文書作成能力が身につくということです。学部でも中間報告のレポートや卒業論文を書きますが、修士課程に進めばさらに2年をかけて同じような作業を繰り返すことになりますので、必然的に文書作成能力が上がります。
特に学部より修士の方が基本的にチェックが厳しいので、レポートにしろ論文にしろ、日本語の表現としておかしい、あるいは論理的整合性が取れていない文章だと、徹底的に直されます。
目的と手段を取り違えていたり、最後まで読んで結局結論がよく分からなかったり、などというのは初めのころはありがちなことです。そういったことも含めて2年間きっちり指導を受けられるのは貴重な経験となります。
論理的に整理された文章を書くことは社会人になってからは特に要求される能力ですので、研究を通じてこのような文書作成能力が身につくというのは、大学院進学の一つの大きなメリットでしょう。
プレゼン能力が身につく
文書作成能力に加え、プレゼン能力が向上することが期待できます。研究室内の中間報告は定期的に開催されますし、学会に参加したり、最後の研究発表があったりと、何かとプレゼンをする機会がたくさんあるのが大学院です。先ほど述べたように、就職面接においても面接というよりも研究発表に近い形式も多いので、とにかくプレゼンをしっかりと行う必要があります。
プレゼンの際は、文書作成と同様に論理的に話を進めることが求められますし、それは社会人になってからも間違いなく必要な能力です。単純にプレゼンという形式でなくても、上司や客先に対して説明をするときに支離滅裂な説明をするわけにはいきませんので、研究発表等を通してこのような能力を身につけることができれば、社会人に向けた一つの大きな準備ができるということになります。
専門的な知識やスキルが身につく
大学院は大学の次の上級学位になるわけですから、研究内容に関連した専門的な知識やスキルが身につけることができるというが当然のメリットとして考えられます。これがあることによって1で述べたように就職しやすくなりますし、専門内容によっては一度身につけてしまえば転職も容易にできるようになります。
ただし、大学院で身につけた専門知識がすぐに仕事で活かせるかどうかは、人それぞれです。企業としても、院卒だからといって即戦力になると考えているわけではないところも多く、仕事を通して学んでいくというのが基本的なスタンスです。場合によっては即戦力になることもあるとは思いますが、企業が求めているのは、その分野の基本的な知識を有していることと、研究を通して2と3で述べたような能力を身につけていることだと思います。
ですので、必ずしも大学院で学んだ専門知識に固執する必要はなく、社会人になっても様々な新しいことを学んでいくのだという心構えを持っておくのが良いでしょう。
まとめ
私も大学院に進学したからこそ、比較的楽に就活を進められましたし、振り返ってみると、仕事を始めてからも大学院での研究を通して学んだことは活かすことができていたのかなとは思っています。
今回の記事ではメリットの話をしましたが、デメリットがあるのも事実です。冒頭で述べた通り「周りの人が行くから自分も行く」というような軽い気持ちで進学すると、デメリットの方が大きくなってしまう可能性も大きいので、理系の人の大学院進学が当たり前だからといって、周りに流されない意志を持つことが大切です。